研究課題/領域番号 |
18K15017
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中尾 周 立命館大学, 生命科学部, 助教 (30646956)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 心臓刺激伝導系 / 不整脈 / 運動 / 分子生物学 / 生理学 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
マラソン選手など持久運動のアスリートには心拍数の著しい低下を示す徐脈性不整脈の発生頻度が高いが、その分子メカニズムは明らかでない。一方、最近研究代表者らは運動誘発性徐脈を引き起こす「ペースメーカ組織におけるイオンチャネルリモデリング」に、特定の転写因子やマイクロRNAの発現変動が重要であることを明らかにしてきた(Circ Res 2017)。本研究では、心拍動の指令塔とも言える心臓ペースメーカー組織を対象として、運動モデルマウスを用いた電気生理解析および網羅的な遺伝子発現解析を実施し、運動誘発性徐脈の原因となる分子およびシグナル伝達系を見出す。特に、過度の有酸素運動による骨格筋および心筋組織の機能低下の原因として知られる活性酸素種が、心臓ペースメーカ組織のミトコンドリア機能および動態にどのような影響を与えるのか、それがペースメーカ機能の低下に関係しているのかに着目して研究を推進している。これまでに運動誘発性徐脈モデルマウスの心臓ペースメーカ組織・洞房結節において、運動による遺伝子発現パターンの変化を網羅的に調べた結果、多くの遺伝子の発現減少が見いだされた。そこには徐脈を説明しうるイオンチャネルや自律神経調節因子など心拍制御にかかわる遺伝子の発現変動が含まれていた。酸化ストレスやミトコンドリア機能に関連する遺伝子群に注目すると、酸化ストレスの関与は明らかではなかったが、興味深いことにエネルギー代謝の変化を示唆する結果が得られた。次年度では、運動によって変動した遺伝子発現パターンが心拍制御機能に影響を及ぼす変化かどうかを検証する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C57B/6マウスに1日2回60分間の強制水泳運動を4週間課すことで拍数の低下を示す運動誘発性徐脈モデルマウスを作製した。心臓ペースメーカー組織・洞房結節から抽出したRNAについて網羅的遺伝子発現解析を実施した。マウス洞房結節は微小組織であるため、サンプルには前増幅処理を施した。解析生データを各遺伝子の発現量を数値化したTPM形式に変換したのち、運動によって発現変動した遺伝子群を抽出した。41,195遺伝子の発現量を解析した結果、安静群のマウス洞房結節には19,679遺伝子が発現しており、そのうち655遺伝子が運動によって2倍以上に増加、4,306遺伝子が1/2以下に減少していた。イオンチャネルや自律神経調節因子など心拍生成および制御にかかわる遺伝子に発現変動が認められた。さらに、酸化ストレスやミトコンドリア機能に関連する遺伝子群に注目すると、エネルギー代謝に関与する変化が生じていることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
網羅的解析で見いだされた遺伝子発現パターンの変動が心拍制御へ直接的ないし間接的に機能的に影響しているのかを検証する。酸化ストレス関連因子についても一部の遺伝子の発現変動を認めており、この変化が心拍制御に影響を与えているかどうかを確かめる。酸化ストレスの程度を蛍光シグナルとして可視化(定量化)する実験をマウス洞房結節および培養ペースメーカ細胞を用いてin vivoおよびin vitroで運動刺激あるいは運動を模した刺激を与えて実施する。ミトコンドリアの関連分子の発現変動および形態変化についてもタンパク質発現やイメージング解析を進め、運動による影響を検証する。また、代謝阻害薬や異なる培地組成による拍動数への影響も解析する。また、徐脈モデルにおける酸化ストレスの影響を調べる目的で、抗酸化薬を投与した運動実験を実施し、治療的効果があるかどうか検証する。
|