研究課題/領域番号 |
18K15018
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
中島 則行 久留米大学, 医学部, 講師 (80625468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | OMP / cAMP / Signal buffering / Resilient firing |
研究実績の概要 |
嗅神経には、Hyperpolarization-activated Cyclic Nucleotide-gated (HCN)チャネルの類縁であるCyclic Nucleotide-Gated(CNG)チャネルが嗅覚線毛に発現しており、cAMPは匂いのセカンドメッセンジャーとしても利用される。本研究助成を受けて我々は、嗅神経細胞に遍く存在するOlfactory Marker Protein(OMP)の中にcAMP結合部位を発見し、cAMPの結合定数を生化学実験で決定した。OMPは、cAMPの急速な吸着分子として機能し、CNGチャネルの過度の活性化とその後のNa+/Ca2+の過剰流入を防ぐ。OMPがノックアウトされた嗅神経では、頻回のcAMPの過剰負荷によりCNGチャネルによる脱分極が進むことで細胞膜が過剰順応をし、神経発火が止まる。そのためOMP-knockout(KO)マウスの嗅上皮にcAMPを負荷すると、KOマウスは目の前の物体(エサ)に興味を示すもののSniffing行動ではエサとして認識できなくなる「無嗅覚症状」を呈することを証明した(Nature Communications, 2020)。OMPはcAMPの吸着をすることで、CNGチャネルを介した急性cAMP応答の時間分解能を高める一方、cAMPを分解から保護することでcAMPプールを安定化しHCNチャネルの持続活性化を可能にする(Biochemical and Biophysical Research Communications, 2017)。さらにバイオインフォマティクスの手法により、OMP遺伝子がカルパイン5遺伝子に組み込まれたNested Geneであることを発見した(Molecular Brain, 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
OMPの物理特性は、過去半世紀にわたって不明であった。今回、cAMP結合タンパク質としての性質が解明されたことを糸口として、OMPが嗅神経細胞の生理機能に必須の分子でありそのメカニズムが分子レベルで理解できた。 一連の研究から、嗅神経細胞では急性・持続性のcAMPシグナルをそれぞれ嗅線毛のCNGチャネル、および細胞体のHCNチャネルと使い分けていることが理解できた。嗅神経細胞ではアドレナリン受容体の自発活性化を介して基底cAMPプールサイズがダイナミックに変化し、それをOMPが安定的に緩衝することでHCNチャネルが持続的な背景電流として膜の脱分極を担い自発発火頻度を制御することを明らかにした。OMPは脳内でも再生に関わる細胞に広く分布しているため、今回の研究は他の神経におけるcAMP緩衝機構の役割の解明につながると考えられる。 OMP遺伝子の進化的系統検索から、さらなる重要アミノ酸残基を発見し、新たな挑戦課題が示された(論文準備中)。以上の結果により、当初予定をはるかに超えた成果が上がっていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
OMPを発現する視床下部ニューロンでは、神経細胞のターンオーバーが起こることを確認している。とくに、OMPは申請神経細胞に強く発現することを発見している。現時点で、ホルモンの調節にOMPが関わるという報告がある。しかし、その詳細なメカニズムは不明である。これまでの我々の発見をもとに、cAMPとホルモン調節機構、および細胞新生との関連を明らかにする。今後も引き続き、cAMPの細胞内調節メカニズムに着眼点を添えて中枢神経系での細胞内シグナリングと膜の電気特性制御機構の解明を続ける。 また、新たにバイオインフォマティクス手法を開発し、OMP遺伝子にはさらに重要アミノ酸残基が複数存在することを確認した(論文準備中)。そこで、OMPにはcAMPの制御以外の機能がある可能性を考慮して、この部位に変異導入を試みて分子レベルでのOMPの新たな役割の解明に挑む。
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