癌によって生き物が死に至る際、癌が全身の生理状態に与える悪影響の実態は依然として謎が多い。本研究では、ショウジョウバエの遺伝学的手法を駆使し、癌が全身の生理状態に悪影響を与える際の作用機序、それを制御するシグナルの解明を試みた。 最終年度である本年度は、昨年度、明らかにした癌が全身の生理状態に悪影響を与える際の作用機序の解明を手がかりにして、癌が全身の生理状態に悪影響を与える際にそれを制御するシグナルの解明を目指した。具体的には、次世代シークエンス法を用いた網羅的解析により、癌個体において正常個体と比較して発現に顕著な変動がある候補遺伝子を同定した。次に、遺伝学を用いてこれら候補遺伝子の癌個体における機能解析をRNAi スクリーニングを用いて行った。最終的に、2つの解析を駆使することで、癌個体の生存に必須な遺伝子を複数同定することが出来た。 研究期間全体を通じて、以下の3点を明らかにした。 1. 癌によって誘導される劣悪な生理状態に対して、死を逃れ、恒常性を維持出来る代謝の条件を探り、通常の代謝の条件と比較して、癌個体の生存率が顕著に上昇する代謝の条件を発見した。2. 遺伝学的手法を用いて組織の代謝状態を網羅的に変化させ、癌個体の生存率に重要な特定の組織を同定することが出来た。3. 次世代シークエンス法を用いた網羅的解析とRNAi スクリーニングを用いた遺伝学を駆使して、癌が全身の生理状態に悪影響を与える際にそれを制御するシグナルの解明を試みた。最終的に、生存に必須な遺伝子を複数同定することに成功した。
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