研究課題/領域番号 |
18K15024
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
宇治澤 知代 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特別研究員 (10816515)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | TRPチャネル / 細胞内温度計測 |
研究実績の概要 |
温度感受性TRPチャネルの活性化温度閾値は膜電流とパッチクランプされた細胞近傍の外溶液温度の同時計測から決定されている。しかし、細胞外からの熱刺激による細胞内温度、さらにはTRPチャネルが発現する形質膜付近の温度が実際にどのように変化しているのかはわかっていない。今回、細胞内温度を計測できる1励起2蛍光型の蛍光温度プローブを用いて、細胞内温度と膜電流の同時計測を行う。はじめに、蛍光温度プローブとしてgTEMPの使用を試みたが、温度変化に対するレシオ値の変化が小さく解析が困難であった。また、倒立顕微鏡上にパッチクランプと細胞内蛍光シグナルイメージング装置を組み合わせたシステムを用いて、TRPチャネルの活性と細胞内温度の同時計測を試みた。しかし、このシステムでは熱刺激時に焦点が外れてしまい、細胞内の温度変化を正確に解析することが困難であった。 そこで、蛍光温度プローブをポリマータイプのものに変更し、さらに共焦点顕微鏡にパッチクランプシステムを組み合わせた新たな同時計測システムを組むことにした。共焦点顕微鏡には赤外線レーザーが温度刺激装置として搭載されているため、温度刺激による焦点のズレがほとんど起こらない。温度感受性TRPチャネルとしては、まずrat TRPV1を用いた。HEK293細胞のrat TRPV1定常発現株を使用し、この細胞に蛍光温度プローブを導入することで同時計測を可能にする。そのために、HEK293細胞における蛍光温度プローブの導入条件や画像取得条件の検討、赤外線レーザーの照射位置調整や応答確認をおこなった。現在、蛍光温度プローブのキャリブレーションカーブを作成中であり、この結果が得られた後、rat TRPV1定常発現株を用いて、膜電流と細胞内温度変化の同時計測をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、細胞内温度を計測できる蛍光温度プローブとして1励起2蛍光型のgTEMPを使用していた。これをHEK293T細胞へ強制発現させて、蛍光強度の比により細胞内温度の変化を観察した。ところが、gTEMPの発現量が細胞間で異なることで、温度に依存したレシオの値が安定しなかった。さらに、TRPチャネルと共発現させた細胞を、同時計測システム上でデータ取得を試みた際、灌流液を用いた熱刺激により細胞の焦点が外れ、細胞内温度の変化を正確に計算できない問題が生じた。そこで、倒立顕微鏡を用いた同時計測システムから、共焦点顕微鏡を用いた同時計測システムを組みなおすことにした。この共焦点顕微鏡には熱刺激装置として、赤外線レーザーが搭載してあり、この熱刺激による焦点のズレはほとんど起きないことが確認できていた。赤外線レーザーを使用するにあたり、まず赤外線レーザーの照射位置を確認した。本来、視野中央に照射されるべきであったが、少し外れていることがわかったため、位置修正をおこなう必要があった。また、細胞間のレシオの値を安定させるためにgTEMPのHEK293細胞での定常発現株を作製した。ところが、赤外線レーザーの温度刺激に対するレシオの値の変化が小さく、わずかな温度差を区別することが困難であった。そこで、細胞内温度プローブをより温度分解能の高いポリマータイプのものに変更することにした。上記の通り、システムの改良や蛍光温度プローブの変更に伴い、予定していたよりも時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、同時計測に最も適した蛍光温度プローブと装置を整えることができた。同時計測に使用する細胞は、温度感受性TRPチャネルをHEK293細胞に一過性発現させたものを使用する予定であったが、形質転換マーカーである蛍光タンパク質が蛍光温度プローブの波長域と重複するため、温度感受性TRPチャネルを定常発現させたHEK293細胞を用いることにした。定常発現株を使用することで、形質転換による細胞ストレスを軽減させることができ、細胞内温度をより正常状態に近い細胞状態で計測できると期待する。さらに、これまでに使用していたgTEMPは細胞への形質転換が必要であるため、初代培養細胞への温度プローブの導入は困難であると思われた。しかし、ポリマータイプの蛍光温度プローブに変更したことで、初代培養細胞への蛍光温度プローブの導入が容易になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞内温度計測に用いた蛍光プローブの蛍光値が細胞毎に安定せず、蛍光値と実際の温度とにズレが生じ、これを解消するための撮影条件や解析方法の検討が必要であった。これに伴い、蛍光プローブの定常発現株(HEK293)の作製や、他の蛍光プローブの使用検討に時間を要した。さらに、共焦点顕微鏡へのパッチクランプシステムの搭載時には、熱刺激用赤外線レーザーの照射位置の修正およびステージの調整に時間を要した。 今後、使用する同時計測システムや温度プローブに変更が生じたが、実験計画は当初予定していた通りに遂行し、蛍光温度プローブの購入や細胞培養、初代培養細胞の採取に伴う物品を購入する。また、結果が得られた際には国内外の学会で発表をおこなう。
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