研究課題
慢性腎臓病(chronic kidney disease; CKD)は我が国の新たな国民病と考えられ、その予防や治療の重要性が唱えられている。しかしながらその治療法は極めて限られており、新規CKD治療法の開発が必要である。そこで、新たなCKD治療標的を探索し,ポドサイトにおける転写因子old astrocyte specifically induced substance (OASIS)に着目、その役割について検討してきた。これまでCKDの中でも特に糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease; DKD)を中心に解析した結果、ポドサイト特異的OASISノックアウト(CKO)マウスではDKDによる腎機能の低下や尿細管傷害が抑制されることを見出した。またDKD病態進行にはTLR4が関与することが報告されているが、TLR4リガンドであるLPSが、培養ポドサイトにおいてOASISを活性化させることを見出した。またLPS誘発急性腎障害モデルにおいてもCKOマウスで腎機能の低下及び尿細管傷害が抑制された。ポドサイトのOASISは、何らかの分泌因子を介して尿細管傷害などを制御していると考察し、OASIS過剰発現ポドサイトを用いたDNAマイクロアレイ及び、LPS処置ポドサイト、LPS投与CKOマウスの腎臓の遺伝子発現解析から、OASISにより発現が抑制される因子としてPrkciを見出した。さらに培養尿細管細胞においてPrkciのリコンビナント蛋白はLPSによる傷害を抑制することを明らかにした。またポドサイト特異的OASIS過剰発現(TG)マウスを作製した。今後は、TGマウスの解析を通じて、ポドサイトのOASISによる腎障害誘発メカニズムのより詳細な検討を行う。またOASISのヒト腎疾患との関連性も明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
当初、2019年度はCKOマウスの生理的条件下での解析を実施する予定であったが、予想以上に進捗し、CKOマウスを用いた検討から、複数の腎疾患モデルにおいて、ポドサイトのOASISの腎病態への関与を明らかにすることができた。さらにそのメカニズムの一端も明らかにしつつある。また、ポドサイトのOASISの機能をより詳細に解析する目的で、当初の予定ではプラスミド投与によるOASIS過剰発現マウスを作製する予定であったが、より細胞特異性を求めてポドサイト特異的OASIS過剰発現マウスの作製へと変更した。そのため、若干の遅れはあるが、予備的データも得られつつある。よって、全体として概ね順調に進捗している。
ポドサイトにおけるOASISの腎病態形成への関与を、ポドサイト特異的OASIS過剰発現マウスを用いて検討する。また、ヒト腎疾患との関連性を明らかにするため、腎疾患患者の組織サンプルを用いての検討を実施する。本研究成果によって、新たなCKD病態形成機構が明らかになる可能性がある。
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