研究課題
社会や環境より受けるストレスは抑うつや不安亢進など情動変容を誘発し、精神疾患のリスクとなる。マウスの社会挫折ストレスモデルにおいては脳内免疫細胞であるミクログリア活性化に代表される脳内炎症や前頭前皮質神経細胞の樹状突起萎縮や樹状突起スパインの喪失などの神経形態変化が情動変容に重要であることが示唆されてきているが、ミクログリアと神経細胞の相互作用並びに神経形態変化の微細形態学的基盤は殆ど確立されていない。研究代表者はこれまで、連続する超高解像度画像の取得により、あらゆる細胞と細胞内小器官の三次元的組織再構築を可能とする三次元電子顕微鏡を用い、発達期睡眠における神経可塑性変化を組織学的に明らかにしてきた。本研究においてはこの技術を用い、社会挫折ストレス後脳組織における神経形態変化と神経グリア相互作用の実態を明らかにすることを目的とする。平成30年度には、ストレスに供したマウスの内側前頭前皮質を三次元電顕により撮像し、連続電顕画像を用いた画像解析を行った。ミクログリアや樹状突起、軸索を三次元再構成することにより、急性の社会ストレス後には軸索とミクログリアの接触面積が増大する一方で、慢性の社会ストレス後にはそれが消失するという予備的なデータを得た。また、ミクログリア内の神経構成要素の貪食にはストレス前後に著明な差は認められなかった。また、樹状突起の形態変化は現在も解析中である。平行して行ったストレス後の脳組織解析により、脳軟膜においてMAPK経路が活性化していることを報告した(Okamura et al. 2019)。今後は、三次元電顕の画像解析による定量評価を推し進め、得られた知見の機能的意義や分子機序の検索を行う。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主目的である、三次元電顕を用いた緻密な組織学的解析には煩雑なサンプル調整や高性能PCを利用した画像解析環境などの環境構築が必要であるが、それらは全て生理研との共同研究の助けもあり順調に立ち上げることが出来た。手動による連続電顕の画像解析には一定量の密なトレーニングが必要であるが、研究補助員や大学院生の十分なトレーニングを行うことが出来、画像解析体制を確立することが出来た。グリア細胞と神経細胞の画像解析は極めて時間と労力のかかる作業であるが、既に予備的な知見は得られており、研究は順調に進展しているといえる。
今後はまず三次元電顕を用いた画像解析の定量評価を完遂させる。その後統計学的解析を施行し、予備的知見を科学的に妥当な結論に昇華させる。ミクログリアと軸索の相互作用を担う分子機序については、分子局在を評価するために免疫染色と超解像顕微鏡法である膨張顕微鏡法や構造化照明法を組み合わせ、ミクログリアと軸索の相互作用の起点となる分子実態を検索する。また、神経活動の薬理学的抑制や軸索へのアデノ随伴ウイルスを用いた分子生物学的な機能介入を行い、ミクログリア軸索相互作用に変化が生じるかどうか検討する。さらに、ミクログリア軸索相互作用を抑制できた場合には、神経活動や神経形態、並びにストレス関連行動変化の変化を調べることにより、ミクログリア軸索相互作用の機能的意義を調べる。以上の戦略により、本研究により得られた予備的知見であるストレス関連ミクログリア軸索相互作用について、その分子機序並びに機能的意義を探索していく。
研究の実施に伴い、計画の細部に関して見直しを図ることによって本年度のコストを抑えることが出来た。また、次年度に必要な消耗品量などの詳細は実施するまで未知の部分があるため、次年度使用額として計上した。使用計画に関しては、当初の研究計画に準じて遂行する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Neuropsychopharmacology Reports
巻: - ページ: -
10.1002/npr2.12051
https://researchmap.jp/hirotakanagai/