社会や環境より受けるストレスは抑うつや不安亢進など情動変容を誘発し、精神疾患のリスクとなる。マウスの社会挫折ストレスモデルにおいては前頭前皮質神経細胞の樹状突起萎縮やスパインの喪失などの萎縮性変化が情動変容に重要であることが示唆されてきており、その機序としてミクログリア活性化に代表される脳内炎症が重要であることが知られる。しかし、ストレスにより生じるミクログリアと神経細胞の直接的相互作用については殆ど知られていない。本研究においてはストレス後の神経とミクログリアの接触に焦点を当て、その相互作用を明らかにすることを目的とする。その目的のため、あらゆる細胞と細胞内小器官の可視化を可能とする三次元電子顕微鏡及び膨張顕微鏡を用いた超解像イメージングを用い、ストレス後の脳組織におけるミクログリアと神経細胞の三次元的再構築を実施した。その結果、急性の社会ストレス後にはミクログリアが軸索を取り囲む現象が亢進すること、一方で慢性の社会ストレス後にはその亢進が消失することを明らかにした。また、ミクログリアにより完全に貪食された神経構成要素の量はストレスの量や経過時間と関連しなかった。さらに、ストレスによるミクログリアと軸索の相互作用亢進は内側前頭前皮質の第II/III層においては見られる一方で第I層では認められないこと、すなわち層特異性が明らかとなった。急性ストレスが情動変容よりもストレス抵抗性の増強を導くという先行研究を踏まえると、これらの知見は亢進した軸索-ミクログリア相互作用が神経活動を制御することによりストレス抵抗性を増強する可能性を示唆する。
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