研究課題/領域番号 |
18K15031
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
日野 浩嗣 日本大学, 医学部, 助教 (30793468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | abemaciclib / CDK4/6 / 自食胞形成 / 細胞死 / 分子スイッチ / リソソーム |
研究実績の概要 |
近年、CDK4/6を分子標的とする阻害薬が3種類(abemaciclib, palbociclib及びribociclib)開発され、乳癌等で臨床応用されつつある。これまでの研究から、CDK4/6が細胞周期停止のみならず殺細胞効果を示すこと、阻害薬のうちabemaciclibのみが強力な自食胞形成を誘導することを明らかにし、abemaciclibによる細胞死がアポトーシス等の典型的なものとは全く異なる新規細胞死であることが示唆された。これを踏まえ、本研究では「abemaciclibによる自食胞形成を伴う新規細胞死誘導メカニズムの解明」を目的とした。 初年度及び二年目には、abemaciclibにより誘導される自食胞はリソソームに由来し、リソソームが酸性化、膨化することでリソソームでのタンパク質分解機能が阻害されていることを示唆する結果を得た。さらに、自食胞形成と細胞死の関連を検討し、誘導される細胞死がいわゆるリソソーム細胞死の様式とも異なることを明らかにした。本年度(三年目)は、abemaciclibによるリソソーム膨化を含む様々な表現形とCDK4,6との関連性を明らかにするべく、CDK4および6のノックアウト、ノックダウン細胞株を樹立した。CDK4及び6の両方の発現を抑制すると、リソソーム膨化が抑制されることを示唆する結果を得つつあることから、abemaciclibは(少なくとも部分的には)CDK4/6を介してリソソームの膨化を引き起こしていると考えられた。加えて、リソソームの新生・リサイクリングへの影響を検討するため、リソソーム新生時に関与する転写因子のGFP融合体の発現ベクターを構築した。また、リソソームの障害と細胞死との関連をさらに明らかにするため、リソソーム透過が起こる際にリソソーム膜に局在するgalectin-3のGFP融合タンパク質発現ベクターも構築した。これらのベクターにより、転写因子活性化による核内移行や、galectin-3の局在化によるリソソーム膜透過性をライブセルイメージングで観察できるようになる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までに明らかにした自食胞がリソソームに由来する点、リソソームの機能障害と細胞死との関連に関する知見を踏まえ、abemaciclibがリソソーム機能障害を引き起こすメカニズムに迫るべく、CDK4/6の関与を検討した。両因子をノックアウトした場合、細胞周期停止が起こることが想定され、実際、両因子のノックアウト細胞株を得ることはできなかった。そこで、片方の因子をノックアウトした細胞株を得た後、もう片方の因子をコンディショナルにノックダウンできる細胞株を樹立し、CDK4/6がabemaciclibによるリソソーム膨化、機能障害で寄与するかを検討した。ノックダウン効率が高い条件においては、若干の空胞形成阻害が認められたことから、CDK4/6が(少なくとも部分的には)CDK4/6を介してリソソームの膨化を引き起こしていることが示唆された。しかし、CDK4/6が具体的にどのようにしてリソソームの膨化を引き起こすのかについては、引き続きの課題である。 上記に加え、リソソームのターンオーバー(新生及びリサイクリング)に対するabemaciclibの寄与を検討し、リソソームの機能阻害メカニズム解明を進める予定である。そのため、本年度は、リソソーム新生に関与する転写因子をライブセルイメージングで経時的観察可能とする発現ベクターの構築を行った。また、リソソーム機能障害の結果、リソソーム膜透過性上昇の影響をライブセルイメージングで経時的に評価することを可能とする発現ベクター(GFP融合galectin-3)の構築も行った。 本年度は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、上記の細胞株樹立、検討及びベクター構築等に通常より長い時間を要した。この影響もあり、当初予定よりもやや遅れが出ているという判断をした。
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今後の研究の推進方策 |
abemaciclibがリソソームの機能を傷害し、リソソーム膨化を引き起こす具体的メカニズムについては、未だ明かでない点が多くある。少なくとも部分的にはCDK4/6を介している可能性が高いが、その下流因子等の分子メカニズムの探索は今後の課題であることから、基地の基質群を中心に下流因子の探索を進めたい。 最近、岡山理科大学のグループが、とある因子の過剰発現によってリソソーム膨化を引き起こすことを明らかにした。この表現形はabemaciclibによる表現形と類似点が多く、情報交換を行っている。同グループとの共同研究も視野に、リソソーム膨化のメカニズム解明をさらに進めていく予定である。 加えて、リソソームの機能不全、膨化と細胞死との関連を具体的に明らかにしていくため、リソソームのターンオーバー(新生及びリサイクリング)に対するabemaciclibの寄与を検討し、リソソームの機能阻害メカニズム解明を進める予定である。本年度構築した、GFP融合タンパク質発現ベクターを用い、次年度からリソソーム新生への影響、リソソーム膜透過性上昇の状況を具体的に観察、評価していく予定である。 これらの検討を通して、abemaciclibがリソソームを膨化させる分子メカニズムを解明し、さらに細胞死との関連をより具体的に明らかにすることを目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、消耗品、遺伝子配列解析委託等に計画的に使用したが、新型コロナ感染症の影響もあり、学会のほとんどがオンライン開催となったために、旅費の使用が全くなかった。加えて、やはり感染症の影響により、研究全体の進捗もやや遅れが出たため、残額が年度末付近においても約30万円ほどある状況であった。このことを踏まえ、次年度まで研究期間を延長し、残額を繰り越し使用することで、やや遅れが出た研究を引き続き遂行し、引き続き消耗品等の購入、学会発表や論文投稿費用に使用することが望ましいと判断した。
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