研究課題/領域番号 |
18K15032
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
三上 義礼 東邦大学, 医学部, 助教 (80532671)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖尿病性心筋症 / 一酸化窒素 / カルシウム / 糖尿病 / 心筋 / ホスホランバン / インスリン |
研究実績の概要 |
糖尿病に合併する心機能障害のうち、冠動脈硬化を認めないものを糖尿病性心筋症という。その特徴として、早期に拡張機能障害が生じ、代償機構を通じて心不全に至る臨床経過をたどる。本研究では左室拡張不全の原因のひとつとして考えられる心筋細胞内Ca2+シグナル制御破綻の分子機序解明を目的として研究を行った。はじめに、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病モデルマウスを用いて、心エコーによる解析を行った。STZ投与4週間後では左室駆出率は保たれていたが、左室拡張機能が低下しており、糖尿病性心筋症早期の表現型に該当することを確認した。STZ投与8週間後では左室駆出率、左室拡張機能共に低下しており、糖尿病性心筋症の中期ステージに該当する病態に進展していた。STZ投与4週間後の心室において、筋小胞体へCa2+を取り込むSERCA2の活性を調節する蛋白質ホスホランバン(PLN)-Ser16の基底状態におけるリン酸化レベルが低下していた。STZ群にインスリン持続投与を行ったところ、PLN-Ser16リン酸化レベルおよび心筋拡張能が回復した。さらに、マウス胎児由来初代培養心筋細胞を用いた解析から、インスリン/Aktシグナルの下流において、一酸化窒素(NO)/cGMP/PKGシグナルを介したPLNリン酸化制御が行われていることを明らかにした。これらの結果から、糖尿病性心筋症早期ステージにおいて、インスリン作用不足によるNO/cGMP/PKGを介したPLN-Ser16リン酸化レベルの低下が起こった結果、心筋細胞Ca2+シグナル制御が破綻して左室拡張障害が起きることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では、NOシグナルを介した糖尿病性心筋症発症の分子機序を解明することを目的として、糖尿病心筋Ca2+シグナル異常を引き起こす心筋細胞内シグナル経路の同定とインスリンシグナルとNOシグナルのクロストークの解明を目指して研究に取り組んだ。マウス心エコーを導入し、モデルマウスにおいて糖尿病性心筋症の早期ステージで見られる左室駆出率が保たれた左室拡張障害がみられることを示した。その原因としてインスリン/Akt/NO/PKGシグナルの破綻がPLNのリン酸化レベル低下の原因であることを明らかにした。インスリンシグナル下流のNOシグナル経路の破綻が糖尿病性心筋症の発症機序に関わることを示すに至っており、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
NOシグナルを介した糖尿病性心筋症発症の分子機序の解明について、1型糖尿病モデルマウスから明らかとなった結果についてより詳細に解析を進め、結果を論文としてまとめて発表する。加えて、2型糖尿病における糖尿病性心筋症の発症に関わる分子機序についても同様にモデルマウスを用いた解析を進める。現在、低濃度のSTZを投与するとともに高脂肪食を与えて作出する2型糖尿病モデルの表現型を解析中である。遺伝子改変マウスを用いる解析に備えて、マウスの飼育・維持を継続する。さらに、インスリンによるSTZ誘発1型糖尿病モデル心筋の拡張機能回復のメカニズム解明や、心房細動リスク増加に伴う不整脈の解析も実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入の際にキャンペーン利用や見積もり額の比較を通して経費節減に努めたため、また、実験計画の段階で適切な使用量を見込んで発注したため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて、実験動物の購入と飼育維持に係る費用、試薬・抗体・培地の費用、細胞培養や生化学的実験に必要なプラスチック器具の費用、学会発表に伴う旅費・宿泊費、論文投稿に必要な費用として使用する計画である。
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