糖尿病性心筋症は糖尿病に合併する冠動脈病変を伴わない心機能障害と定義される。早期に拡張機能障害が認められ、代償機構を通じて心不全に至る臨床経過をたどる。左室拡張不全は心筋細胞Ca2+シグナル制御の破綻に起因すると指摘されるが詳細な機序は不明である。我々はCa2+シグナル制御破綻の機序解明を目的として、streptozotocin(STZ)誘発1型糖尿病モデルマウスの解析を行った。STZ投与4週後(STZ-4W)のマウスでは、心エコー解析から左室駆出率に変化はみられなかったものの拡張機能が低下していた。一方、構造的リモデリングに着目したところ、STZ-4W心室では線維化は認められなかった。STZ-4W心室では、phospholamban (PLN)-Ser16、および、eNOS-Ser1177のリン酸化レベルがコントロールマウス心室に比べ有意に低下していた。STZ投与1週間後からインスリン徐放性ペレットを皮下投与して3週間後に評価したところ、血糖値は高いままの個体から正常値に低下した個体までバラつきがあったものの、全ての個体において左室拡張機能の回復が認められ、心室におけるPLN-Ser16、および、eNOS-Ser1177リン酸化レベルがコントロールレベルまで回復していた。興味深いことに、インスリン投与STZ-4Wマウスでは、血中エリスロポエチン (EPO) 濃度が上昇していた。マウスにEPOを投与すると、心室eNOS-Ser1177リン酸化レベルが上昇した。これらの結果から、インスリン投与はNOS/NO/PKG経路を介してPLN-Ser16リン酸化レベルを維持することで左室拡張機能を回復させることが示唆され、さらにその作用の一部にEPOを介した心腎連関機構の関与が示唆された。
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