研究実績の概要 |
脳内出血は脳血管の破裂に基づき血液が脳内に漏れ出す疾患である。過去の研究において、好中球の走化性因子として知られる生理活性脂質であるロイコトリエンB4 (LTB4) の受容体 (BLT1) が脳内出血時の好中球浸潤を制御するターゲットになることを見出しており(Hijioka M. et al., 2017)、本研究ではLTB4を含めた各種生理活性脂質が脳内出血病態に与える影響を明らかにすべく研究に取り組んでいる。昨年度の結果より、脳内出血時にはトロンビンによって活性化されたミクログリアによって放出されたLTB4 がミクログリア自身の活性化を正に調節すること、また、好中球の浸潤を促進することを示しており、今年度はLTB4 と同様に5-リポキシゲナーゼを介してアラキドン酸から生合成されるリポキシンA4(LXA4)に着目した。トロンビンによって活性化されるミクログリアから放出されるLTB4 は好中球の遊走を促進するが、LXA4を共処置することで、好中球の遊走が強力に抑制された。また、LXA4抗炎症性の脂質代謝物であることが報告されているため、トロンビンにより活性化したBV-2ミクログリアに対する作用も調べたところ、LXA4はミクログリアの活性化抑制作用も有することを見出した。マウス脳内出血モデルに対してもLXA4シグナルの治療効果を調べた。LXA4受容体アゴニストであるBML-111を連日投与したところ、脳内出血モデルマウスの運動機能障害の程度が改善される傾向が見られた。以上の結果から、LXA4受容体シグナルは脳内出血病態の軽減を緩和させる作用を有することが示唆された。
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