血管内皮細胞は、単に栄養や酸素を送り届けるだけでなく、他の細胞と相互作用して組織再生を促す。よって、脳組織あるいは機能再生の実現には、血管内皮新生が必須である。これまでの検討から、組織障害に伴い遊離するhigh mobility group box1(HMGB1) 単独処置では血管新生に影響しなかった。一方、HMGB1と共通の受容体に作用する終末糖化産物(advance glycation end products、AGEs)は血管新生を促すことを確認した。昨年度は、AGEsによる血管新生の誘導機序についてさらなる解析を行った。AGEsは複数のスカベンジャー受容体を介して細胞内シグナルmammalian target of rapamycin (mTOR)を活性化し、血管新生を誘導することを確認した。AGEs受容体であるRAGEは、スカベンジャー受容体の発現上昇に関与し、AGEsによる血管新生の誘導作用に寄与することを見出した。 従来、AGEsは糖尿病や老化に伴い体内に蓄積することで生理機能の障害を引き起こす原因分子とみなされてきた。本研究は、血管内皮細胞におけるAGEsの血管新生誘導作用に関与する受容体・細胞内シグナルを明らかにした。AGEsそのものを組織再生に臨床応用することは副作用の面から困難であるが、関係する受容体や細胞内シグナルを活性化することができれば組織再生を促進できることが示唆される。今後、生体内で組織再生が進行している微小環境におけるAGEsの役割を明らかにすることで、血管新生の誘導に基づいた組織再生療法への応用が期待できる。
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