本研究では集団間で共通する結核発症の遺伝的要因を明らかにすることを目的としている。代表者は感染結核菌ゲノム中の遺伝的マーカーで結核患者を層別化してヒトゲノム多型の関連解析を行うという新しい解析法により、新規の結核発症遺伝要因CD53を報告している。本研究計画においてこのヒトゲノムと結核菌ゲノム両面の統合的解析を発展するとともに、日本人結核患者群に対しても適用し、ヒトゲノム変異と結核菌ゲノム変異の相互作用を日本人集団とタイ人集団の両集団で解析・比較する。 昨年度までに代表者は、先行取得のタイ人結核患者群データにおいて、結核発症に関連する結核菌のゲノム多型を全ゲノム配列中から探索し、これまでのゲノム欠失領域による分類時よりもさらにヒトゲノム多型のリスクを上昇させる変異群を同定した。さらに、タイ保健省医科学局との共同研究の下、タイ人追加ヒトゲノムSNPアレイデータ取得と結核菌ゲノム次世代シークエンス(NGS)データを進めていた。また、結核予防会との共同研究の下、日本人結核患者集団において、結核菌64株のNGSデータを取得していた。当該年度は、タイ人結核患者群の検体数を605例まで増やすとともに、取得した結核菌NGSデータについて、日本人結核患者由来株ならびにタイ人結核患者由来株に対して共通の解析パイプラインを用いて、結核菌ゲノム多型データ取得を行った。ヒトゲノム中のHLAアリルのリスクを上昇させる結核菌ゲノム多型を対象として解析したところ、新たにリクルートしたタイ人結核患者群においてもリスクを上昇させることが再現される結核菌ゲノム多型が見出された。さらに、日本人結核患者群においても、HLAアリルのリスクを上昇させる結核菌ゲノム多型が存在した。これらの結核菌ゲノム多型はタイ人集団と日本人集団という異なる集団間で共通した発症関連遺伝要因であることが示唆された。
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