研究実績の概要 |
中心体は、母/娘中心小体と呼ばれる2つの微小管構造体とその周囲に局在する蛋白質複合体PCMによって構成される細胞内小器官であり、細胞分裂や繊毛形成などの多彩な機能を有する。中心体は細胞分裂期において双極性の紡錘体極として細胞内微小管ネットワークを制御することにより染色体の均等分配を担う。中心体数の異常は染色体の不均等分配を惹起し、発癌リスクまたは癌の悪性度を高める要因となる。このため中心体数はG1期には1つ、S-G2期に複製されて2つになる様に細胞周期を通して厳密に制御されているが、その分子制御機構に関しては現在も不明な点が多い。その一例として中心体複製には鍵分子Polo-like kinase 4 (PLK4)が母中心小体基底部に局在することにより新規中心小体の複製が開始することが知られているが、その分子制御機構に関しては未だ不明である。私はこの分子機構の解明を目指してこれまで研究を進めてきた。その結果同分子の中心体局在に必須領域とその領域に結合する分子の同定に成功した。更にこれら結合分子の機能解析を進めることによりPLK4分子の中心体移行を制御する分子基盤を解明することにも成功した。 また上記研究と併行してストレス応答MAPKKK, MTK1の機能解析も進めており、MTK1が酸化ストレスセンサーとして機能することも見出した。酸化ストレス環境に曝されるとMTK1が一時的に酸化され、その後還元酵素 Trxによって酸化型MTK1から還元型に戻ることでMTK1が活性化されることを明らかにした。この酸化還元に共役して活性化したMTK1は酸化ストレス環境下におけるストレス応答MAPKの持続的な活性化を担っており、酸化ストレス環境における細胞死または炎症性サイトカイン産生など細胞運命決定に重要な役割があることを解明した (Science Advances 2020)。
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