研究実績の概要 |
精神疾患のほとんどは、原因となる分子機構が未だ不明確である。本研究の目的は、核輸送因子importin-α1による脳機能の制御機構を理解し、その発現低下が引き起こす精神疾患に似た行動異常の発症機序を明らかにすることである。これまでにimportin-α1遺伝子欠損マウスが、エストロゲンシグナル経路の活性低下により雌生殖器の低形成や出産異常を示すことを明らかにした。エストロゲンは脳機能の改善作用を有することから、本研究では特にエストロゲン受容体(Estrogen receptor-α:ERα)の細胞内分布とシャトリングに着目した。 ERαは、主に核に存在する核内受容体である。しかしERαは、核-細胞質間を常にシャトルしており、核内では転写因子として、細胞質ではAKTシグナル伝達経路などの活性メディエーターとして機能する。しかしながら、ERαのシャトル機構についてはほとんど分かっていない。本研究により、ERαがimportin-αにより認識されて核内へ輸送されることを示した。さらに、エストロゲン依存性のERαの細胞質局在化には、核輸送因子であるTransportin-2(TNPO2)が関与することを明らかにした。興味深いことに、TNPO2はERαを核外輸送するのではなく、細胞質保持に関与することがわかった。さらにTNPO2の発現を抑制すると、ERαの核局在が促進され、AKTのリン酸化が減少することを確認した。これらの結果から、importin-αとTNPO2はERαの核-細胞質間シャトリングと細胞質保持を制御していることが明らかになった(Moriyama T, et al. Sci Rep. 2020)。本研究の成果から、ERαの核-細胞質間シャトリングの解明や乳がん及び精神疾患の治療法の開発や創薬への応用が期待される。
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