昨年度の繰越申請でも記載した通り研究進捗が当初の予定より良好であり、大脳皮質の分化誘導および脊髄組織の分化誘導が初年度のうちに完遂する方向で昨年度に多くの額を使ったため、本年度は消耗品の購入に充てた。 研究内容としては、SFEBq法を用いて3次元での大脳皮質組織および脊髄組織の誘導を行った。非血清存在下に神経組織が誘導されることを元に、まずSFEBq法によって神経上皮の誘導を行い、Wnt/BMP阻害剤の添加によりそれらの神経組織を吻側化する事で大脳皮質領域の誘導を行い、逆にWntシグナルやレチノイン酸シグナルを増強することで神経組織を後方化することで脊髄組織の分化誘導を行った。分化誘導開始後30-40日で3次元のヒト大脳組織および脊髄組織を得ることができた。大脳組織については、分散後の神経ネットワークにおける神経機能評価を行なっている。神経機能の定量評価は恣意性の排除が難しい部分になるが、本研究ではハイコンテントアナリシスの手法とカルシウムイメージングの組み合わせによって、包括的かつ恣意性を排除した神経機能評価を可能とした。 これらのうち、脊髄組織の分化誘導についてはDevelopment誌に報告してあり、大脳組織の神経活動評価についてはStem Cell Reports誌に掲載された。大脳の機能を再現するというテーマは必然的に倫理的問題をはらむ可能性があるため、倫理学者との共同研究で、どのような大脳オルガノイドは倫理的に考慮に値するかなどについて、perspectiveとして報告できた。
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