研究課題/領域番号 |
18K15053
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋多 美穂子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (50792727)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナルコレプシー / CD4+ T細胞 / CD8+ T細胞 / 後部視床下部 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本研究では、代表的な過眠症であるナルコレプシーを対象とし、その発症原因となる脳内でのオレキシン神経の脱落が起こる機序を解明するために、後部視床下部組織ならびに免疫細胞の双方でDNAメチル化の変化を探索し、比較検討を行う。前年度までに脳の後部視床下部ならびに側頭葉皮質におけるDNAメチル化解析を実施し、ナルコレプシーに関連するDNAメチル化の変化は、特に神経脱落が起こる後部視床下部特異的であること、また最も強い関連を示す領域はMBP(Myelin Basic Protein)遺伝子の上流領域であり、ナルコレプシーではメチル化率が上昇していることを見出した。さらにナルコレプシー関連メチル化部位は先行研究で報告されている多発性硬化症関連メチル化部位と有意に重複する一方で、脂肪酸代謝に関わるパスウェイ上の遺伝子近傍にも多いことが明らかとなった。 今年度はさらに、末梢血から磁気ビーズを用いて分離したCD4+ T細胞並びにCD8+ T細胞を対象とし、網羅的にDNAメチル化について測定を行い、患者・健常者間での比較を行った。その結果、特にCD4+ T細胞で患者・健常者間のメチル化の違いが大きいこと、患者では全体的にメチル化率が低下していることが判明した。未だ再現性研究の途中段階ではあるものの、CD4+ T細胞ならびにCD8+ T細胞におけるナルコレプシー関連メチル化領域は免疫系に関わる遺伝子の上流領域に多いことも明らかとなっている。これらの免疫系遺伝子に関しては、上流領域のメチル化の変化により、真に遺伝子発現が変化しているかなどを、今後さらに検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、オレキシン神経が脱落している後部視床下部組織そのものにおけるエピジェネティックな変化と、先行研究よりオレキシン神経脱落への関与が示唆されている免疫細胞における変化を共に探索し、比較することを目的とした。死後脳からの後部視床下部の切り出し、DNA抽出ならびにDNAメチル化解析は前年度までに終了しており、今年度はCD4+ T細胞及びCD8+ T細胞の分離、DNA抽出、メチル化解析を実施した。その結果、両T細胞において、疾患関連メチル化部位の全体的な低メチル化の傾向や、免疫系遺伝子上流領域のメチル化の関連が示唆された。特にCD8+ T細胞の解析では、CCR5やCCL5といったケモカインに関連する遺伝子上流領域のメチル化率に差が見られた。これらの興味深い結果に加え、新規にサンプルを収集することが可能となったため、追加のサンプルについても2種類の免疫細胞のメチル化解析を実施し、再現性の確認を行うこととした。そのため研究期間の延長を申請してはいるものの、すでに予定通りの解析は概ね終了しており、研究自体の進捗は順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はCD4+ T細胞並びにCD8+ T細胞を対象とした新たなサンプルでの解析を進め、はじめのサンプルセットで得られていた結果が再現されるかを検討する。さらに現在、より発展的な解析として、CD4+ T細胞内、ならびにCD8+ T細胞内でのサブタイプについての検討を予備的に実施している。DNAメチル化は細胞や組織によってそのプロファイルが大きく異なることが知られるため、患者・健常者間での比較を実施する際には、比較するサンプルの細胞構成が2群間で異なっていないことが重要である。本研究では細胞の種類を揃える工夫をした上で解析はしているものの、CD4+ T細胞内にもTh1やTh2といったさらに細かいサブタイプが存在している。ゲノムワイドなDNAメチル化のデータを用いて主成分分析を実施すると第一主成分、第二主成分のバラつきが、各サンプルに含まれるサブタイプの比率によって説明されるという結果をすでに得ている。なお、各サンプルに含まれるサブタイプの比率については、それらのマスター転写因子(T-bet, Gata3)のbinding siteのメチル化率から推測した。以上から、サブタイプの影響を考慮した解析を実施することで、さらに疾患に関連するメチル化についてより詳細に解析し、新たな関連領域の同定などにつなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、当初CD4+ T細胞ならびにCD8+ T細胞におけるDNAメチル化解析に対する再現性研究は予定していなかったが、新たにサンプルを入手することが可能となったため、より正確な結果を得るために再現性研究を実施することとなった。それにより一部の検証実験などを次年度に実施することとなり、次年度使用額が生じた。
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