研究課題/領域番号 |
18K15056
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平野 和己 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (40707709)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 大脳オルガノイド / DNAメチル化 / ペリセントロメア |
研究実績の概要 |
近年、ヒト大脳発生を模倣した3次元in vitroモデル「大脳オルガノイド」が報告された。これはヒト大脳発生の詳細な分子機構の解明を可能とする先進的な技術であるが、現状の作成法では、脳回(脳のしわ)や大脳皮質の6層構造は完全には再現できず、また霊長類に特徴的に見られる大脳皮質構造も形成されない。さらに、DNAメチル化パターンの網羅的解析が行われ、胎児脳と比較した結果、大脳オルガノイドにおいて、本来メチル化を受けているセントロメア近傍領域(ペリセントロメア)が未知の機構により脱メチル化され、低メチル化状態に誘導されていた。この状態は精神遅滞を伴うICF症候群と共通する表現型であり、現状の大脳オルガノイド作成法では正常な大脳発生を再現できていない可能性がある。そこで、本研究課題では、DNAメチル化異常を解消した大脳オルガノイドの作成を目的とした。 本年度は、ペリセントロメア結合因子でありICF症候群の原因遺伝子であるZBTB24に着目し、DNAメチル化への関与を解析した。HEK293T細胞においてZBTB24のノックダウンを行い、ゲノム全体のメチル化レベルの評価をメチル化感受性制限酵素を用いて実施した。しかし、ZBTB24のノックダウンに伴うDNAの低メチル化の誘導は観察されなかった。今後、ヒト神経幹細胞における過剰発現を行い、分化時の低メチル化を救済できるかを検討する。一方、DNAの脱メチル化に関してアスコルビン酸(ビタミンC)の関与が報告されている。そこで、ヒト神経幹細胞においてアスコルビン酸添加を行った結果、低メチル化の誘導が確認された。アスコルビン酸は大脳オルガノイドだけでなくin vitro神経分化誘導時に添加する試薬の一つであることから、分化時の異常な低メチル化の原因の一つであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、実施計画の一つであるZBTB24のDNAメチル化への関与などの機能解析を実施した。その結果、予想に反してZBTB24ノックダウンでは、DNAのメチル化への影響がないことが明らかになった。一方、DNAの脱メチル化を亢進することが報告されているアスコルビン酸について検討を行なった結果、確かにヒト神経幹細胞のDNAの低メチル化を誘導することが明らかになった。この検討をもとに、ヒト神経幹細胞から大脳オルガノイドを誘導した結果、未分化な神経幹細胞と比較し、DNAのメチル化が促進されていることが分かった。今後この新たな培養法を基盤に研究を進めていく予定である。以上のように、ZBTB24の役割に関して予想に反した結果を得たが、新たな方針の元、これまでにない大脳オルガノイド培養法の確立につながり、研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ZBTB24の過剰発現による役割の検討の継続、および、ヒト神経幹細胞を利用した新規大脳オルガノイドにおける、次世代シークエンサーを用いたペリセントロメア領域のメチル化レベルの評価を中心に行う。また、本研究課題を基課題にした国際共同研究強化(A)が採択されたため、創薬を志向した培養法の確立へと発展させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の本研究課題の初年度であり、大脳オルガノイドにおける異常なDNAの脱メチル化に深く関与すると予想されたZBTB24の役割の解明を実施した。これまでの予備的検討でZBTB24の発現低下がDNAの低メチル化を誘導することが示唆されていたため、ZBTB24のノックダウンを実施し、DNAのメチル化レベルを評価した。その結果、予想に反し、DNAのメチル化レベルに変化はなく、研究の方針の転換を余儀なくされた。そこで、文献の検索や、学会などでの情報収拾に数ヶ月を要し、そこで得た情報をもとに研究の方針を決定した。そこで、DNAの低メチル化を誘導することが報告されているアスコルビン酸(ビタミンC)に着目し、新たな大脳オルガノイドの作成に着手した。このような情報収拾に時間を要した経緯があったため、残額が生じた。
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