近年、ヒト大脳発生を模倣した3次元in vitroモデル「大脳オルガノイド」が報告された。これはヒト大脳発生の詳細な分子機構の解明を可能とする先進的な技術であるが、現状の作成法では、脳回(脳のしわ)や大脳皮質の6層構造は完全には再現できず、また霊長類に特徴的に見られる大脳皮質構造も形成されない。更に、DNAメチル化パターンの網羅的解析が行われ、胎児脳と比較した結果、大脳オルガノイドにおいて、本来メチル化を受けているセントロメア近傍領域(ペリセントロメア)が未知の機構により脱メチル化され、低メチル化状態に誘導されていた。この状態は精神遅滞を伴うICF症候群と共通する表現型であり、現状の大脳オルガノイド作成法では正常な大脳発生を再現できていない可能性がある。そこで、本研究課題では、DNAメチル化異常を解消した大脳オルガノイドの作成を目的とした。 DNAの脱メチル化は、TET遺伝子がシトシン残基のメチル基をヒドロキシメチル基に誘導するステップから始まる事が知られている。そこで本年度は、TET活性を介したDNAの脱メチル化への関与が報告されているアスコルビン酸に着目し、アスコルビン酸処理でDNAのメチル化が減少し、ヒドロキシメチル化が誘導されるかを検討した。研究協力者が開発した新たなDNAメチル化の検出方法を用いて、アスコルビン酸処理によるDNAメチル化への影響を検討した。その結果、HEK293T細胞を用いたコントロール実験で確かにDNAのメチル化の減少とヒドロキシメチル化の増加が確認された。更に、予備的検討ではあるがヒト神経幹細胞からオルガノイドの誘導時にDNAのメチル化が誘導されている事が判明した。これらの結果から、1)ヒト神経幹細胞を用いた大脳オルガノイド分化誘導では、全体的なDNAメチル化の誘導傾向と、2)アスコルビン酸処理によるDNAの低メチル化の誘導が判明した。
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