近年、ヒト大脳発生の3次元in vitroモデル「大脳オルガノイド」の作成法が報告されたが、胎児大脳と比較し、セントロメア近傍領域(ペリセントロメア)におけるゲノムDNAの異常な低メチル化が指摘されている。この状態は精神遅滞を伴うICF症候群と共通する表現型であり、現状の大脳オルガノイド作成法では正常な大脳発生を再現できていない可能性がある。そこで、本研究課題では、DNAメチル化異常を解消した大脳オルガノイドの作成を目的としている。 DNAの脱メチル化に関してアスコルビン酸(ビタミンC)の関与が報告されている。そこで、ヒト神経幹細胞においてアスコルビン酸添加を行った結果、低メチル化の誘導が確認された。アスコルビン酸は大脳オルガノイド誘導時に添加する試薬の一つであることから、分化時の異常な低メチル化の原因の一つである可能性が示唆された。 一方、DNAの脱メチル化(5mC)は、TET酵素によるメチル基へのヒドロキシ基の付加(5hmC)を介して反応が進むことが知られている。細胞の異常なメチル化を評価するために、ハイスループットな方法の開発が必要とされている。そこで、特殊な二機能性リンカー分子を使用し迅速かつ再現性のあるELISA法を共同研究者と共に開発した。本システムでビタミンCの脱メチル化効果も検証が可能であり、今後オルガノイドを用いた検証を実施する予定である。また、申請者はこれまで、ビタミンB2とその誘導体であるFADが神経分化促進効果を発揮することを報告している。そこで、オルガノイドの誘導(2ヶ月間)において、ビタミンCおよびFADの影響の評価を行なった。現在、それぞれの培養条件のオルガノイドについてDNAのメチル化解析を実施している。
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