本年度は当研究室で同定した老化細胞を選択的に死滅させる化合物(T-JFCR-01から08)の有用性を確認するため、まずは老化細胞除去作用を持つことが知られるさまざまな化合物との比較検討を行った。ヒト正常線維芽細胞株(TIG3、IMR-90)に継代培養あるいはDNA損傷ストレスによる細胞老化を誘導し、各化合物を添加したところ、T-JFCR-08が既存の老化細胞除去作用を持つ化合物よりも低濃度で老化細胞を死滅させることがわかった。また、ヒト正常上皮細胞株(RPE)、マウス正常線維芽細胞株(MEF)、マウス肝星細胞(HSC)においてもT-JFCR-08が老化細胞を死滅させることが確認できた。さらにDNA損傷ストレスによる老化細胞誘導モデルマウスにおいてもT-JFCR-08の投与により、老化細胞を除去できることが確認できた。そして、生体内における老化細胞除去の生理的意義について肝がん形成モデルにて検討したところ、T-JFCR-08により老化細胞が除去され、腫瘍の形成促進が著しく抑制されることが明らかとなった。 また、T-JFCR-08による老化細胞の細胞死誘導のメカニズムについて明らかにするため、T-JFCR-08は標的とする蛋白質の機能阻害を介して、様々な遺伝子の発現を抑制することから、RNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。老化細胞でT-JFCR-08処理時に遺伝子発現が低下する遺伝子に着目し、それら遺伝子の発現をsiRNAにより抑制したところ、老化細胞においてのみ細胞死を誘導する遺伝子Xを同定できた。この遺伝子Xが関与する分子機構が老化細胞の細胞死抵抗性の獲得に貢献している可能性が高いため、現在は遺伝子Xを介した分子メカニズムに着目をしてT-JFCR-08処理による変化について解析を進めている。
|