研究実績の概要 |
本研究は、睡眠時無呼吸症候群がインスリン抵抗性を引き起こす機構を明らかにするため、インスリン抵抗性をもたらす分子として注目を集めているアディポカインに着目している。 申請書の研究計画に基づき、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1の脂肪細胞への分化誘導を行い、非分化誘導及び分化誘導後の3T3-L1細胞、更にヒト脂肪細胞SW872について、専用の細胞培養装置を用いて間歇的低酸素(IH)条件下(1%O2・5%CO2の5分間の低酸素、21%O2・5%CO2の10分間の正常酸素を交互に繰り返す)におき、対照として通常酸素条件下に24時間曝露した。次に、IH曝露後、細胞からRNAを抽出し、逆転写したcDNAを鋳型に数種類のアディポカインや炎症性サイトカイン等について、IH曝露により影響を受ける遺伝子の探索をリアルタイムRT-PCR法にて行った。その結果、非分化誘導の3T3-L1細胞ではIH群で有意にCcl2 mRNA発現が増加、分化誘導後の3T3-L1細胞でIH群では有意にRetn (Resistin),TNFα,IL-6,Ccl2 (Mcp-1) mRNA発現が増加した。ヒトSW872細胞においてはIH群で有意にADIP発現が低下し、RETN, TNFα, CCL2 mRNA発現が増加した。更に、それぞれの脂肪細胞の培養上清を採取しておき、ELISA法を用いて遺伝子発現の変化がみられた遺伝子についてタンパク発現についても検討したところ、IH群でRETN, TNFα, CCL2が有意に上昇していた。 以上から、SAS患者の脂肪細胞ではIHによって、RETN, TNFα, CCL2などのアディポカイン遺伝子発現の変化が起こり、インスリン抵抗性悪化を引き起こす可能性が考えられた。 以上の成果について学会発表を行った。現在は申請書に基づく更なる実験計画及び学会発表、論文作成のための準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、平成30年度における研究計画として申請書に記載した項目について、1.マウス前駆脂肪細胞3T3-L1の脂肪細胞への分化誘導を行い、それぞれの細胞を、専用の細胞培養装置を用いて間歇的低酸素(IH)条件下(1%O2・5%CO2の5分間の低酸素、21%O2・5%CO2の10分間の正常酸素を交互に繰り返す)におき、対照として通常酸素条件下に24時間曝露した。2.1.についてIH曝露後、細胞からRNAを抽出し、逆転写したcDNAを鋳型に数種類のアディポカインや炎症性サイトカイン等について(レプチン、アディポネクチン、RETN、UCP1、CCL2、TNFα、IL-6等)、候補となるものの遺伝子発現をリアルタイムRT-PCR法を用いて、IH曝露により影響を受ける遺伝子の探索を行った。3.2.に記載したとおりの遺伝子発現検索を行った後に、それぞれの脂肪細胞の培養上清を採取しておき、ELISA法を用いて遺伝子発現の変化がみられた遺伝子について蛋白質レベルでの発現についても検討した。 上記研究の結果、非分化誘導の3T3-L1細胞ではIH群で有意にCcl2 mRNA発現が増加、分化誘導後の3T3-L1細胞でIH群では有意にRetn,TNFα,IL-6,Ccl2 mRNA発現が増加した。ヒトSW872細胞においてIH群で有意にADIP発現が低下し、RESISTIN(RETN), TNFα, CCL2 mRNA発現が増加した。以上から、SAS患者の脂肪細胞ではIHによって、RETN, TNFα, CCL2などのアディポカイン遺伝子発現の変化が起こり、インスリン抵抗性悪化を引き起こす可能性が考えられた。 以上は申請書に記載した研究計画に基づいた研究の進行であり、また研究成果に基づいて学会発表を行った。以上より、進歩状況について(2)おおむね順調に進展している、と報告する。
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今後の研究の推進方策 |
今後について、申請書に記載した研究計画に基づき引き続き研究を進める予定である。すなわち、IH曝露により影響を受けたアディポカイン遺伝子の転写調節機構の解明を行う。具体的には、4.IH曝露により発現が有意に上昇したRETN, TNFα, CCL2について、種々の長さのプロモーター領域を単離し、ルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を持つプラスミドに挿入する。このプラスミドをマウスまたはヒト脂肪細胞に導入してIH曝露を行い、転写活性を測定し、IH曝露により転写活性が影響を受けるシス領域を同定する。シス領域が同定できた場合、絞り込んだプロモーター領域に結合する転写調節因子をin silico解析により探索する。次に、RETN, TNFα, CCL2の転写調節因子結合配列に変異を導入したプロモーター解析用プラスミドを作成し、4と同様にレポーター解析を行い、転写調節因子を同定する。脂肪細胞の転写調節因子をsiRNAによりノックダウンした後、IH曝露を行い、細胞からRNAを抽出し、RETN, TNFα, CCL2遺伝子発現をリアルタイムRT-PCRで確認する。シス領域が同定できなかった場合、転写後調節の可能性についても検討する。その一つにmicroRNA(miR)の関与が挙げられる。RETN, TNFα, CCL2 mRNAと相補性を有するmiRをin silicoで検索する。IH曝露後の脂肪細胞からターゲットとなるmiR及び、miRの合成に関与するDROSHAやDICERについてもmRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRで測定する。miR mimicあるいはmiR inhibitorの導入により、IH群で観察されたRETN, TNFα, CCL2 mRNA発現量の変化が生じるかどうかについて検討する。 以上について研究を行い、研究成果について学会発表及び論文作成を行う予定である。
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