ファブリー病は、リソソーム性加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼA(GLA)の遺伝子変異によりGLA活性の低下が起こるX染色体性の遺伝病である。本研究では特に軽度な臨床症状を引き起こすミスセンス変異3種類(p.R112H、p.N215S、p.M296I)とアミノ酸置換を引き起こすがファブリー病の病因とならない機能的多型4種類(p.E66Q、p.R118C、p.A143Y、p.D313Y)を蛋白質レベルで比較し、病気と非病気の境界を解明することを目的とした。 本年度では、前年度までに作製・精製した野生型及び7種類の変異GLAのpH安定性を熱変性温度(Tm)の測定により解析した。リソソームのpHである酸性条件下では、全ての変異GLAが野生型よりもやや低いものの極めて高い安定性を保持していることが確認された。一方、リソソーム以外の細胞内pHである中性条件下では、p.M296I は野生型と同程度の安定性を、p.N215S、p.E66Q、p.R118C及びp.D313Yは野生型よりもやや低い安定性を、p.R112Hとp.A143Tは野生型よりも大きく低下した安定性を示した。本結果は、前年度に解析した酵素活性法による解析とほぼ一致した。 in silicoによる立体構造変化の予測の結果と合わせると、機能的多型4種類は分子表面に小さな構造変化しか起こしていないが、病気を引き起こすミスセンス変異3種類についてはp.R112Hは中程度の構造変化を起こすこと、p.N215Sは糖鎖結合部位に変異が起きていること、p.M296Iは分子内部に変異が起きていることにより、中性である小胞体で安定性が低下し、小胞体関連分解により分解されるため、ファブリー病を引き起こしていると予測された。 本研究の生化学的、構造学的解析結果は、ファブリー病の分子病態の解明につながる結果であると考えられた。
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