本研究の目的は、細胞老化を起こした肝星細胞より分泌されるエクソソームが肝実質細胞の代謝を攪乱し腫瘍化を引き起こす分子メカニズムを解明し、新たな肝がんの予防法や治療法の開発に繋げることである。これまでに、申請者は肥満誘導性肝がんにおいて肝星細胞を介した肝実質細胞が腫瘍化するメカニズムを明らかにするために、肥満誘導性肝がんモデルマウスにおける代謝の変化について調べた。その結果、肥満誘導性肝がんモデルマウスの腫瘍部において糖代謝関連酵素の遺伝子発現が低下しているにもかかわらず、それらの中間代謝物が蓄積していることが分かった。これら腫瘍部に蓄積されている中間代謝物は恐らく肝実質細胞以外の細胞から合成され、供給されていることが考えられる。そこで、申請者が脂肪肝に模した培養状況で肝星細胞を培養したところ、エクソソームの分泌が上昇することが分かった。更に、脂肪肝に模した培養で培養した肝星細胞の培養上清で肝実質細胞を培養した結果、細胞内に脂質の蓄積されることが観察された。また、老化誘導した肝星細胞と肝実質細胞株を共培養したところ、脂質酸化に関わる遺伝子の発現が低下することも分かった。次に、申請者がこの蓄積された脂質が肝腫瘍の形成に関わるのかを調べるため、脂質の分解を促進できる化合物をマウスに投与した結果、肝腫瘍の形成が抑制された。これまでの結果から、肝腫瘍内に老化した肝星細胞がエクソソームを介して肝実質細胞の細胞内代謝を調節し、肝腫瘍の形成に影響を与えていることが示唆される。
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