研究課題/領域番号 |
18K15074
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
稲垣 奈都子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (00611419)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 肝臓 / グリセロリン脂質 / PUFA / リゾリン脂質アシル転移酵素 / 再生 / 肝疾患 |
研究実績の概要 |
グリセロリン脂質とは、グリセロール骨格に二つの脂肪酸鎖とリン酸を含む極性基が結合した構造を有するリン脂質のことを指す。近年、グリセロリン脂質は生体膜の主要構成成分としての役割だけでなく、様々な生命現象に関与していることが明らかになってきた。グリセロリン脂質の生合成には二種類の経路が存在する。グリセロール3リン酸を起点とする新規合成経路 (Kennedy pathway)と一度生合成されたグリセロリン脂質の脂肪酸の交換を行うリモデリング経路(Land’s cycle)で、この脂肪酸転移反応を行うのがリゾリン脂質アシル転移酵素である。当研究室で発見されたリゾホスファチジルコリンアシル転移酵素3(LPCAT3)は、リゾリン脂質アシル転移酵素の一つで、哺乳類においてユビキタスに発現している。私たちのグループはLPCAT3全身性欠損マウスが、中性脂質の輸送不全により小腸の脂質吸収不全や血糖値低下をきたし、新生仔致死に陥ることを報告した。このようにLPCAT3は、発生時に必要なリン脂質を合成・供給していることが明らかとなった。LPCAT3は、胎仔だけでなく成体にも高発現していることから、発生期のみならず成体の恒常性維持にも重要な役割を担っていると考えられるが、LPCAT3の成体における役割はまだ不明な点も残されている。 そこで本研究では、脂質代謝の中心的役割を担う成体肝臓に着目した。新たに作成した肝臓特異的LPCAT3欠損マウスを用いて、生理的条件下における肝臓特異的にLPCAT3を欠損させた際に生じる変化を解析するとともに、肝臓を外科的に切除した後に起こる肝再生や肝疾患におけるLPCAT3の役割を明らかにすることにより、『LPCAT3による生体恒常性維持機構』の解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず肝臓特異的LPCAT3欠損マウスを作成し、その生理的条件下における特性を明らかにした。肝臓特異的LPCAT3欠損マウスは全身欠損マウスとは異なり、雌雄とも全匹、胎生致死・新生仔致死にはならずに成体にまで成長した。生理的条件下での肝重量比はコントロールマウスと比較して有意な差は認められず、組織所見や血液生化学検査においても違いは認められなかった。しかしながら、LPCAT3の肝臓特異的欠損によって、肝臓の脂質組成は明らかに変化し、特にアラキドン酸含有リン脂質は欠損マウス肝臓において有意に減少していた。 再生能力の高い臓器として知られている肝臓は、その2/3を切除しても残った1/3の肝臓が大きくなることにより、数週間で元の大きさにまで回復することが知られている。この肝臓特異的LPCAT3欠損マウスを用いて、肝再生におけるLPCAT3の役割に関しても研究を進めた。部分肝切除を施行すると、コントロールマウスに比べ一過性に肝再生が促進されることが分かった。細胞周期マーカーの発現や肝細胞の肥大も先んじて起こっていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
肝再生のプロセス内で脂質代謝が関与していることはこれまでにも示唆されてきたが、肝再生における生体膜グリセロリン脂質の脂質代謝制御機構は分かっていない。昨年度までの研究によりLPCAT3が肝再生に関与することを明らかにしたが、本年度そのメカニズムを解明する。高速液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて、肝臓のリン脂質、脂肪酸ならびに代謝産物の変動を詳細に解析する。そして、原因となるシグナル経路を明らかにしていく。 併せて、肝臓特異的LPCAT3欠損マウスに肝疾患を起こさせ、LPCAT3が肝臓の病態形成にどのように関与するかを調べる。 本研究成果を、国内国外問わず学会発表にて報告するとともに、論文の形として発表するように努めていく。
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