研究実績の概要 |
我々の研究ではこれまでに、高悪性度EGFR肺腺癌が微小乳頭状成分を伴うこと(Matsumura M et al. 2016 PLoS One)を示し、微小乳頭状組織亜型の悪性度を規定する分子基盤の解明を目標としてきた。我々はMUC21がこのような微小乳頭状成分に特異的に発現し、MUC21を高発現するがん細胞は特に悪性度が高いことを明らかにした(Matsumura M et al. 2019 PLoS One)。本課題では、EGFR肺腺癌凍結検体からマイクロダイセクションを用いて、MUC21染色陽性となる微小乳頭状成分と、MUC21染色陰性の非微小乳頭状成分、正常肺組織を単離し、それぞれから抽出したDNAを用いて全エクソーム解析を行った。得られたfastqファイルでバイオインフォマティクス解析を行い、微小乳頭状成分に特異的に変異を有する1762個の体細胞遺伝子変異を抽出、KEGG pathway解析によって発がんや細胞接着に関わる遺伝子が多く含まれていることが解明された。そこから変異に意味のある(アミノ酸置換がたんぱく質の構造に与える影響の大きい変異等) 32個の候補遺伝子を選び出した(松村舞依 他, 日本癌学会学術総会, 2019年)。これらの候補遺伝子について、全エクソーム解析に用いた同一症例に対しサンガー法での検証作業を行い、7個の遺伝子に絞り込んだ。当該年は、症例を拡張してマイクロダイセクションを用いてEGFR肺腺癌凍結検体から、微小乳頭状成分(20例)と非微小乳頭状成分(10例)を切り分け、この30症例に対して候補遺伝子のamplicon panel sequenceを行った。その結果微小乳頭状成分が多く含まれるクラスターに、p53をはじめとする複数の遺伝子変異がより多く含まれていること、またこれらの遺伝子変異を有するクラスターは、脈管侵襲等の予後不良因子を多く含むことが示された(松村舞依 他, 日本病理学会学術総会, 2021年)。
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