研究課題/領域番号 |
18K15091
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
石井 順 獨協医科大学, 医学部, 助教 (80749599)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 肺癌 / 神経内分泌形質 / Delta-Notch / 小細胞肺癌 / 腫瘍内不均一性 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、DLK1遺伝子をノックダウンした小細胞肺癌細胞TKB15における3/4型POU遺伝子発現状態を解析した。DLK1ノックダウンに伴う3/4型POU遺伝子の発現変化は一定ではなく、例えばPOU3F3は亢進、POU4F2は減少、POU3F2は著変無しであった。また、DLK1ノックダウンTKB15細胞は野生型に比べ増殖速度・増殖活性が低下しており、小細胞肺癌の増殖に関わるとされる遺伝子の発現が低下していた。こうした結果から、DLK1が3/4型POU遺伝子発現に与える影響は限定的で、それよりも細胞の増殖への関与が大きいと考えられた。しかし小細胞肺癌細胞における普遍性を確認するためには、DLK1ノックダウン小細胞肺癌細胞株を追加してデータを蓄積する必要があると考えられた。 DLK1遺伝子をノックダウンした新規小細胞肺癌細胞株の樹立と並行し、細胞集団中に5%程度存在するDLK1強発現細胞を単離して解析に用いる試みに着手した。DLK1遺伝子プロモーター領域の下流に蛍光タンパク遺伝子を連結した遺伝子構築物を小細胞肺癌細胞株に導入し、生細胞におけるDLK1強発現細胞を追跡可能とした。セルソーターを用いて蛍光強度の高い細胞を選別・単離し、DLK1強発現細胞が多数を占める細胞集団を複数の小細胞肺癌株で得た。DLK1高発現細胞集団ではPOU3F2発現は野生型集団に比して大きく異ならなかったが、神経特異的転写因子であるASCL1発現が高い傾向がみられた。近年、小細胞肺癌組織の不均一性を示す現象として、小細胞肺癌にはASCL1をはじめとした組織特異的転写因子の発現状態が異なる複数のタイプが存在すると報告された。DLK1発現とASCL1発現の関連が示唆され、またDLK1強発現細胞は細胞集団の極一部であることから、DLK1が腫瘍内不均一性に何らかの影響を与えている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に必要となるDLK1抑制小細胞肺癌株およびDLK1導入非小細胞肺癌株といったツールが揃いつつある。また本年度の検討により、DLK1遺伝子を高度に発現する小細胞肺癌細胞群を選別し、実験に供することが可能となった。こうした培養細胞を用い、神経内分泌形質関連遺伝子 (3/4型POU遺伝子や他の神経特異的転写因子) の発現解析を行ったデータが蓄積しつつある。小細胞肺癌細胞株のin vitroでの増殖速度の遅さから、DLK1抑制細胞の作製に時間を要しているが、研究は概ね計画通りに進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きDLK1抑制小細胞肺癌株の樹立に取り組み、それらを用いてDLK1発現と神経内分泌形質発現の関連について明らかにする。また本年度の検討から、DLK1発現が腫瘍内不均一性に何らかの形で関与している可能性が考えられた。腫瘍内不均一性は癌治療を困難にしている大きな要因であることから、DLK1が神経内分泌形質発現に与える影響のほか、腫瘍内不均一性への関与についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
DLK1抑制小細胞肺癌細胞株の樹立および細胞培養、遺伝子発現解析を継続し、研究成果を発表するため、次年度使用額が生じた。 使用計画 1. 細胞培養用培地・血清・消耗器具の購入, 2. DLK1ノックダウン細胞作製(DNA塩基配列解析など), 3. cDNA合成、遺伝子発現解析用試薬等の購入, 4. 学会発表・論文投稿の補助
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