研究実績の概要 |
本年度はまず、DLK1遺伝子をノックアウト(KO)した小細胞肺癌細胞株を新たに2種樹立した(TKB12-DLK1KOおよびLu135-DLK1KO)。これら細胞株を用いて、DLK1のKOに伴う神経内分泌マーカー遺伝子(CHGA, SYP, NCAM1)および3/4型POU遺伝子(POU3F4)発現の変化をリアルタイムPCR法により解析した。その結果、DLK1 KOに伴う遺伝子発現量の変化はせいぜい2倍以内であることが明らかとなった。先に解析したDLK1遺伝子KO株(TKB15-DLK1KO)の結果と合わせて考えると、DLK1の発現が神経内分泌形質発現や3/4型POU遺伝子発現に与える影響は大きくないと考えられた。そこで次に、DLK1発現が小細胞肺癌株の増殖速度に与える影響について解析を進めた。DLK1KO小細胞肺癌細胞株の増殖速度を細胞増殖アッセイにより解析すると、DLK1 KO株は野生株に比して増殖速度が低下していた。小細胞肺癌細胞の増殖パスウェイに関わるとされる遺伝子の発現をリアルタイム法で解析すると、DLK1 KO細胞では細胞周期に関わるCCND1遺伝子発現が低下していた。以上より、小細胞肺癌細胞が高度に発現するDLK1は、その増殖に寄与することが示唆された。 前年度の検討より、DLK1強陽性細胞は小細胞肺癌細胞集団中のわずか数%であることが明らかにされていた。そこで、DLK1強陽性細胞は増殖因子を分泌することで、細胞集団全体の増殖に寄与しているのではとの考えに至った。小細胞肺癌が産生する増殖因子の遺伝子発現をリアルタイム PCR法により解析すると、DLK1 KO細胞株はIGF2およびNTS発現が低下していた。小細胞肺癌中のDLK1強陽性細胞は、IGF2やNTSといった増殖因子を分泌することで、細胞集団全体の増殖に寄与している可能性が考えられた。
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