胃癌と炎症・免疫関連分子についての臨床病理組織学的な検討に引き続いて、その機序を解明するために、以下2つの研究を行った。 ①遺伝子増幅以外のPD-L1発現経路を探索することを目的に各種実験を行った。まず微小環境との相互作用に着目し、INFγが胃癌培養細胞株のPD-L1発現を増強させることを確認した。さらに胃癌培養細胞株を用いた実験を継続したが、IFNγがPD-L1発現を増強する際に共に変化している分子を同定することは叶わなかった。また既報を参考に、EBV関連胃癌のうちPD-L1発現あり10例と発現なし6例について、FFPE標本からRNAを抽出し、RT-PCRでPD-L1のExon4と3’UTRの発現を比較した。その結果PD-L1発現例の1例で3’UTRの発現が著明に低く、この症例は3’UTRの異常を有する可能性が示唆された。この際に先行研究で遺伝子発現解析(RNA-seq)にて3'UTRが保たれていることが判明している症例に対しても同様のRT-PCRを行い、判定の参考とした。 ②NLRP3が胃癌細胞の遊走能を亢進させる機序を解明することを目的に実験を行った。まず胃癌培養細胞株とNLRP3のインフラマソーム形成阻害薬(MCC950)を導入して遊走能の変化を調べたところ、NLRP3の遊走能亢進はインフラマソーム非依存的であることが判明した。この際に増殖能に関しても検討し、MCC950の細胞毒性による影響は問題ないことを確認した。続いて胃癌培養細胞株とNLRP3のsiRNAを用いてマイクロアレイによるmRNA発現解析を行った。その結果いくつかの候補の分子が見出されたため、それらの分子に関して胃癌培養細胞株の実験を行ったところ、NLRP3はS100A8の制御を介して細胞遊走能を高めることが示唆された。
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