研究課題/領域番号 |
18K15103
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研究機関 | 東京医療保健大学 |
研究代表者 |
橋本 浩次 東京医療保健大学, 医療保健学部, 講師 (30731575)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肺孤立性毛細血管腫 / 肺 / 毛細血管 / 脈管 / 免疫組織化学 / miRNA |
研究実績の概要 |
研究は、胸部CTで肺の孤立性結節として無症候性に発見されるsolitary pulmonary capillary hemangioma (SPCH)を術前に診断する目的で、術前新規バイオマーカーの探索が行われてきた。令和2年度までに、①肺がんと肺の血管・血管内病変に注目し、肺における血管・血管内病変での病理診断学の重要性を明らかにした上で、②SPCHが血管周皮マーカーであるmyosin1β陽性細胞を有していることを明らかにした。 まず①では、SPCHがこれまで報告されてきた間葉系腫瘍とは異なる新たな疾患概念であることを文献的に確認した。その上でSPCHが胸部CTで鑑別となる最重要疾患である肺がんと、血栓塞栓症との関連に注目し、肺がんと血管内病変、すなわち血栓に注目して、その特徴をまとめた。具体的には、肺がん患者における術後早期の脳梗塞は、心房細動に起因するものと、肺静脈断端における内皮細胞傷害と血流うっ滞に起因するものがあることを確認した。 次に②では、新規SPCH症例を見出し、免疫組織化学的検討を行った。SPCHが血管内皮マーカーのみならず、α-smooth muscle actin (SMA)のような血管周皮にも陽性となるマーカーが陽性となることを確認したのちに、新規血管周皮マーカーであるmyosin1β陽性細胞を有していることを明らかにした。すなわち、SPCHでこれまでα-SMA陽性とされていた細胞が血管周皮であることを見出した。 上記の研究成果の一部は、Hashimoto H, et al. J. Thorac. Dis. 2019; 11: S9-S24.、Hashimoto H, et al. Cancers. 2019; 11: 488.、Hashimoto H, et al. Pathol. Int. 2020; 70: 568-573.などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
いずれの症例にも共通して増加、ないし減少の見られるmiRNAを正確に検出するためにより多くの症例の集積が必要であった。本研究に使用可能なさらなる症例の集積を行い、2例のSPCHを発見した。これまで、術前診断において、画像上、肺がんとの鑑別が難解な理由として、CTにてスリガラス影を示し、増大傾向を示すことであるとされてきた。追加した症例のうち1例においては、結節は増大傾向を示すのみならず、中心の濃度も増加していた。この事実から本研究の術前診断バイオマーカーの必要性が裏付けられた。 現状では、肺のホルマリン固定パラフィン包埋組織からのRNAの抽出において、難渋している。RNA抽出キットを変更するなどの工夫が必要と考えられるが、COVID-19によりRNA抽出キットの入手に難渋した。さらに緊急事態宣言などにより実験自体が遅れた。一方で、免疫組織化学的検討によって、myosin1βの発現がSPCHで見られることなどの事実を見出しており、免疫組織化学的検討で代替した研究が成果を挙げつつある。
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今後の研究の推進方策 |
SPCHは肺に孤立性の結節を形成する毛細血管腫であり、研究代表者らは胸部CTで無症候性に発見される病変であることを明らかにした。2018年になってSPCHの臨床病理学的解析に関する論文が中国から2件報告され、それらの論文では我々の報告した特徴と極めて類似した特徴が報告されている。SPCHは良性病変であり、術前に診断が可能になれば切除不要であるが、依然、術前の診断は困難である。 まず、免疫組織化学的検討を追加する。具体的には脳の動静脈奇形で発現が明らかになってきているErk1+2の免疫組織化学的検討を追加する。これと同時に、ホルマリン固定パラフィン包埋組織からRNAの抽出を行い、miRNAアレイ解析を行っていく。具体的にはSPCHとそれらの非病変部におけるmiRNA発現をマイクロアレイ法による網羅的解析を行い、発現の増加、ないしは減少がそれぞれのSPCHの症例に共通してみられるmiRNAを同定する。これらのmiRNAのうち、cell cycleや血管リモデリングに関与するmiRNAを候補miRNAとして抽出する。次に組織由来のmiRNAの発現の確認を行う。標的miRNAの発現をSPCHのホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を用いてqPCR法を行うことでSPCHと非病変部のmiRNAの発現量を確認する。 最後に患者血清・喀痰でのmiRNAの発現の検討を行う。近年、癌と体液中のmiRNAとの関連によるリキッドバイオプシーなどの組織以外での材料を用いた診断法の開発が盛んに行われている。本研究において、疾患関連miRNAの体液中への検出が可能と予想される。そのため、血液や喀痰などの生検体からRNAを抽出し、それらの検体におけるmiRNAの発現の差異を、疾患患者と健常者との間で確認することで、侵襲性の無い診断法を開発する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA抽出やRNAアレイ解析に至るまでに時間がかかっており、そのために計上した費用が未使用となっている。それに伴い、成果発表も遅れている。アレイ解析のために計上した費用と成果発表のために計上した費用を次年度に使用予定としている。
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