研究課題
①分類の難しい紡錘形細胞肉腫の2例において、RNAシーケンスを用いて新規融合遺伝子STRN-NTRK3、STRN3-NTRK3を発見した。これらの融合はRT-PCR、FISH、およびpanTRK免疫染色にて確認した。これらの腫瘍は若年成人の骨と軟部に発生しており、いずれもCD34を発現する均一な紡錘形細胞の密な束状増殖からなっていて、現行のWHO分類では、除外診断的に線維肉腫と分類せざるを得ない像を示していた。1例は高悪性度で致死的な経過をたどったが、もう一例は低悪性度で、肺転移はあるが患者は生存している。NTRK融合を有する悪性腫瘍には特異的なチロシンキナーゼ阻害剤が有効であるが、肉腫における頻度が極めて低いため、全例で遺伝子的スクリーニングを行うことは現実的でなく、臨床病理像からの絞り込み戦略が求められている。今回の研究成果により、CD34陽性の線維肉腫と分類されうる若年成人の肉腫にNTRK3融合が存在することが明らかになり、阻害剤適用のある患者を発見する重要な手掛かりとなると考えられる。(Yamazaki et al, Am J Surg Pathol. 2019)②非典型的な像を示す脱分化型軟骨肉腫において、脱分化成分のみでH3K27me3が消失することを明らかにし、新規疾患亜型として提唱した。これらの症例は脱分化型軟骨肉腫のおよそ30%を占め、肋骨をはじめとする上半身に好発し、脱分化成分の組織像が悪性末梢神経鞘腫瘍に類似するという特徴を持つ。次世代シーケンスを用いて解析したところ、H3K27me3の消失にはPRC2複合体要素の遺伝子変異が関与していることが判明した。この研究は軟骨肉腫の脱分化機構の一端を示唆したのみでなく、骨腫瘍の病理診断において注意すべき重要な知見を提供した。(Makise et al. Mod Pathol. 2019)
2: おおむね順調に進展している
通常の診断技法では分類不能ないし分類困難と考えられる症例をすでに多数例集積しており、それらを次世代シーケンスのパイプラインで解析している。今年度は、こうして得られた結果のうち、ふたつの腫瘍型(NTRK3融合紡錘形細胞肉腫と非典型的な脱分化型軟骨肉腫)について臨床病理像と対比して、新規腫瘍亜型として論文発表することができた。
昨年度末に、分類の難しい若年成人の高悪性度肉腫の2例において、RNAシーケンスによりパートナーの共通した新規融合遺伝子を発見し、RT-PCR、FISH、免疫染色にて確認した。これらの症例を臨床病理像と合わせて投稿し、現在minor revise中である。このほか、論文作成の最終段階にあるプロジェクトが2本あり、来年度も同様に興味深い結果を公表できる予定である。また、病院での診断業務や全国からの病理診断コンサルテーションを通じて、分類困難肉腫症例がさらに集積されており、これらについてもほぼリアルタイムでシーケンス解析を行うことができている。これらの結果を参照しつつ、臨床病理学的に意義のあるコホートの認識に努めたい。
残額9661円であり、ほぼ予算どおりである。残額は翌年度の試薬代等に使用する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
American Journal of Surgical Pathology
巻: 43 ページ: 523-530
10.1097/PAS.0000000000001194
Modern Pathology
巻: 32 ページ: 435-445
10.1038/s41379-018-0140-5.