研究課題
本研究は大腸癌の前駆病変である鋸歯状病変から大腸癌への進展経路を探索する研究である。Traditional serrated adenoma (TSA)は、しばしば前駆病変としてhyperplastic polyp (HP)やsessile serrated adenoma/polyp (SSA/P)という病変を有する。報告者は、HPやSSA/PからTSAへの進展に関わる分子メカニズムを検討した。HPやSSA/Pを前駆病変として有するTSA15例を対象とし、TSAと前駆病変の両成分についてレーザーマイクロダイセクションを用いた変異解析、in situ hybridization、および免疫染色による検討を行った。BRAF/KRAS変異は、全例で両成分に共通していた。一方、WNT経路遺伝子変異(RNF43/APC/CTNNB1)は、8例でTSA成分にのみ認められた。3例で両成分にRNF43変異を認めたが、TSA成分のみでhomozygousであった。ISHでRSPO3過剰発現をすべてのPTPRK-RSPO3融合陽性例でTSA成分に限局して認めた。WNT経路活性化マーカーの免疫染色では、β-catenin核集積は12例、MYC過剰発現は13例でTSA成分に限局して認められた。以上よりWNT経路遺伝子異常は、前駆病変からTSAへ進展する際に獲得されると考えられた。また、TSAにおけるRSPO融合の頻度およびバリエーションを検証するために、新たに99例のTSAの分子病理学的解析を行ったところ、29例で既知のPTPRK-RSPO3融合が認められ、3例でEIF3E-RSPO2融合、1例でPIEZO1-RSPO2融合という2つの新規融合遺伝子が同定された。これらの結果から、RSPO2融合を有するTSAは、RSPO2融合陽性大腸癌の前駆病変であることが示唆された。
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