研究課題/領域番号 |
18K15119
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹中 菜々 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(RPD) (20792849)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | iPS細胞 / ウルリッヒ型筋ジストロフィー症 / 細胞移植治療 / 間葉系前駆細胞 |
研究実績の概要 |
骨格筋組織中には血小板由来増殖因子受容体(PDGFRα)陽性の間葉系間質細胞(MSC)が存在している。MSCが産生し分泌する様々な成長因子や細胞外基質は、骨格筋の恒常性の維持や筋再生にポジティブに働いていることが報告されている。それらMSCが産生する細胞外基質の中でも、6型コラーゲン(COL6)は、筋肉幹細胞(サテライト細胞)の自己複製や骨格筋再生を促進すると報告があり、ヒトでは、COL6の欠損はウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー症(UCMD)等の筋疾患の原因となることが分かっている。UCMDは、全身の骨格筋の萎縮と筋力低下が主な病態であるが、現時点で有効な治療法は存在しておらず、そればかりか、COL6の欠損がどのようなメカニズムを介してUCMDの病態を引き起こしているかについても明らかとなっていない。 研究者はこれまで、UCMDモデルマウスに対して、ヒトiPS細胞から作製されたMSC (iMSC)を移植する実験を実施し、移植されたiMSCが生着し、正常なCOL6を分泌すること、そして、COL6が補充された領域において、サテライト細胞が活性化され、それとともに再生筋の成熟が促進されることでUCMDの病態が改善することを、組織学的な解析により確認した。 そこで、COL6産生能力を欠落させたiPS細胞(COL6KO-iPSC)からMSCを作製し、前述の実験と同様にUCMDモデルマウスへ移植し、治療効果を解析することで、細胞移植によるUCMD治療メカニズムを解明することを目的として、当該研究を計画した。この研究は「なぜCOL6が欠損すると筋委縮が起こるか」を精緻に解析することにもつながり、UCMD発症メカニズムの解明に寄与し、治療法開発にもつながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、iMSC移植によるUCMDの病態改善メカニズムを解明するため、CRISPR-Cas9システムにより作成されたCOL6欠損iPS細胞(COL6KO-iPS細胞)を用いて、in vivoとin vitroでの実験をそれぞれ進めた。 in vivo実験では、正常なCOL6分泌能力を持つ健常者由来iPS細胞に由来するiMSCと、COL6KO-iPS細胞に由来するKO-iMSCとを、それぞれUCMDのモデルマウス(COL6KO/NSG)の骨格筋組織中へ移植し、細胞移植による治療効果を比較した。その結果、iMSC移植では移植筋中にCOL6タンパクが補充され、COL6タンパクが補充された領域において骨格筋成熟促進効果が認められた。一方で、KO-iMSC移植時にはタンパクの補充は確認されず、骨格筋成熟効果も認められなかった。 さらに、in vitro実験では、iMSCとKO-iMSCをそれぞれ、UCMDモデルマウスの骨格筋より採取した筋サテライト細胞と共培養し、サテライト細胞の増殖・分化、さらには、サテライト細胞から分化した筋管細胞の成熟過程を解析した。その結果、vivo実験と一致して、KO-iMSCとの共培養時には、iMSCとの共培養時にみられたような、骨格筋サテライト細胞の増殖・分化・成熟の促進効果が見られないということが確認された。 平成30年度は、11月の第二子出産に伴って、約半年間は研究を中断することとなったが、上記のとおりおおむね予定通りに研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、平成30年度に確認された「COL6による骨格筋再生・成熟促進メカニズム」について、より詳細を明らかとするための分子学的解析を実施して、治療効果を発揮している因子を具体的に判明させることを考えている。 平成30年度のvivo実験とvitro実験により、KO-iMSCではUCMDに対して治療効果が得られないことが明らかとなったため、iMSC移植による治療効果は、「iMSCによって分泌されるCOL6を介した作用」が関与している可能性が高いと考えた。そのため、平成30年度と同様のサテライト細胞との共培養実験を実施したのち、共培養3日目に、①RNA seq、②シグナルリン酸化解析を実施し、サテライト細胞の活性化に、COL6がどういった因子やシグナル経路を介して関与しているかを明らかとする。さらに、筋管の成熟に関わるメカニズムの解明には、共培養6日目の筋管細胞で発現している転写因子の同定を実施する。これらin vitro実験により、COL6がUCMD筋に対して治療効果を発揮する際に関与する具体的な因子を、骨格筋の分化ステージごとに詳細に解明することができる。同時に、in vivo解析では、hiPSC-MSCまたはCOL6KO-hiPSC-MSCが移植されたUCMDマウス筋組織を採取し、それぞれに対してサイトカイン抗体アレイ解析を実施して比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は第二子出産に伴い、半年間の産前産後休暇を取得したため、当該年度に使用予定であった助成金を次年度に使用することとなった。 次年度の研究では、サイトカイン抗体アレイでの解析実験を実施するが、当初の予定よりも多くのサンプルでの解析実験を実施することとなったために、次年度に繰り越す助成金をその実験にあてる。
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