研究課題/領域番号 |
18K15130
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
林地 のぞみ 順天堂大学, 医学部, 特任助教 (80772433)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サルコメア / 顆粒球コロニー刺激因子 / 筋形成 / 筋再生 / サルコペニア |
研究実績の概要 |
本研究はサルコメアの合成機構を明らかとすることを目的とする。具体的には、最初に顆粒球コロニー刺激因子欠損マウスのサルコメア合成抵抗性マウスの樹立と解析を行う。次に、サルコメア合成のメカニズム解明を行う。さらに、サルコメア合成に関与する顆粒球コロニー刺激因子の下流因子の特定とその作用機序解明する。そして最終的には 筋萎縮モデルマウスにサルコメア合成促進剤を投与し有効性を検証することである。これら成果は、従来サルコメアの過剰な分解に対しては、サルコメア分解抑制(Nakao R et al. Mol Cell Biol. 2009)、もしくは筋量を増加させるが副作用の強い蛋白同化ホルモンによる治療研究が主流であるのに対し、本研究の独自性は、合成促進剤によってサルコメア合成を促進させ、筋萎縮を改善する新たなアプローチである。なお、本研究による合成機構の解明は「サルコメア合成・促進機序」という新しい課題を突破し、当該専門分野の発展に寄与する研究である。サルコメアの合成は骨格筋の再生・促進のみならず、生体における生理的肥大に必要不可欠であり、その応用は幅広い。さらに、合成促進剤が同定できれば、ヒトにおいて重症の糖尿病、心臓病、末期のエイズ、ガン、筋ジストロフィー、フレイルといった重篤な筋萎縮を呈する治療法の確立されていない疾患の新しい治療法開発への波及効果が期待される。現在までにサルコメアに注目し、筋再生・筋萎縮の治療への応用は前例がなく本研究は極めて挑戦的なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、顆粒球コロニー刺激因子がサルコメアを合成に関する下流のシグナルの因子の同定に成功し、その詳細の検討を行った。まず最初に、当該因子が欠損したマウスにおいて出生直後の横隔膜のサルコメア構造に異常をきすことを発見した。次に、当該因子欠損マウスの成体の骨格筋では中心核をもつ再生筋や大同不同など筋線維に異常が認められ、さらに筋力の低下など骨格筋に異常がおこることが確認された。電子顕微鏡でも、ミトコンドリアの異常蓄積、サルコメア構造の異常が認められた。また、当該因子のヘテロマウスにカルディオトキシンによる急性筋損傷をおこさせると異常な筋再生、筋湿重量の低下、筋力の低下が顕著に認められるなどハプロ不全な表現型が現れた。これららの結果は、当該因子がサルコメア合成及び筋再生に重要な因子であることを強く示唆している。次に、顆粒球コロニー刺激因子が、サルコメア合成に関与するメカニズムを解明するために骨格筋前駆細胞であるC2C12に顆粒球コロニー刺激因子因子を添加し分化誘導を行った。結果、Dystrophinや Creatinine Kinaseといった筋分化成熟遺伝子の発現が亢進し、一本当たりの筋管の核の数、筋線維の太さなど筋融合を促進する作用をもつことを発見した。一方、顆粒球コロニー刺激因子の下流に関与している因子の阻害剤を添加し筋分化誘導を行うと、筋分化融合能が低下し、筋分化成熟因子の発現が低下することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
顆粒球コロニー刺激因子受容体欠損マウスも当該因子欠損マウスも全身性の欠損を用いた組織・機能解析であるため、両作用が骨格筋特定的な要因によりサルコメアに関与しているかは不明である。このため、顆粒球コロニー刺激印受容体と当該因子の骨格筋特異的欠損マウスを作製し、解析する必要がある。骨格筋特異的欠損マウス作製後は、両マウスの筋発生、筋再生を含むサルコメア合成における両因子の作用を明確化する。さらに、筋衛星細胞から筋管形成、筋線維形成に両因子がどのように関与しているかを解明する予定である。さらに、In vitroでの解析を進めるために現在までにC2C12にsiRNAや阻害剤を用いて解析に取り組んできたが、さらにCRISPR Cas9システムを用いて顆粒球コロニー刺激、顆粒球コロニー刺激因子受容体、当該因子の欠損株を樹立し、遺伝子発現やタンパク発現に変化が現れるかを評価する事を予定している。他にも、解析方法としては筋管形成時や骨格筋の分化成熟に関する遺伝子発現とタンパクの発現の差を比較する。さらに、顆粒球コロニー刺激因子の下流因子のシグナルカスケードを明確化する。現在までに顆粒球コロニー刺激因子の下流因子の発現を亢進させる薬剤や低分子化合物の報告はない。もし、当該因子の発現を促進する低分子化合物を特定することができれば、筋ジストロフィーやサルコペニア、カヘキシーといった筋萎縮を呈する疾患に対する新しい治療法に繋がることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の見積もりが安くついたことと、本年度では組織特異的欠損マウスを作製するためそちらに研究費を温存させたかったため。
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