本研究は、マラリア原虫の感染ステージであるスポロゾイトにおいて、先端部小器官に局在する分子RALP1が、蚊から哺乳類へのマラリア原虫の伝搬の際にどのような役割を担うかを明らかにすることを目的として実施したものである。 プロモーター置換により作出したRALP1スポロゾイト時期特異的発現抑制原虫(RALP1-cKD原虫)の、スポロゾイトにおけるRALP1のmRNA量を定量した。RALP1-cKD原虫におけるRALP1 mRNAの発現はコントロールと比較して10分の1以下まで抑制されていた。 RALP1が肝細胞への侵入・肝細胞内での発達に関与するかを知るために、肝細胞癌由来の培養細胞であるHepG2細胞にRALP1-cKDスポロゾイトを感染させ、48時間後に肝細胞内に寄生する原虫数を測定した。RALP1-cKD原虫とコントロールに差は見られなかった。スポロゾイトをマウスに静注し、48時間後に肝臓を回収、肝臓に含まれる原虫量を定量した。肝臓に含まれる原虫量について、RALP1-cKD原虫とコントロールに差は見られなかった。さらに、感染72時間後に肝臓を回収し、肝臓に含まれる原虫量を定量したところ、コントロール原虫、RALP1-cKD原虫共に感染48時間後の肝臓内原虫量の100分の1程度まで減少していた。 以上のことから、RALP1は感染後48時間まで、すなわちスポロゾイトの血管内皮から肝実質への脱出と肝細胞への寄生、肝細胞内での発達、さらに肝細胞からの放出に必須ではないことが明らかとなった。 しかしながら、スポロゾイトをマウスに静注し、肝臓での発達を経て血液中に出現した感染赤血球数は、コントロールと比較してRALP1-cKD原虫で減少していた。このことから、RALP1は肝細胞から放出されたメロゾイトが赤血球に感染するまでに機能しているのではないかと推測される。
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