最終年度である本年度は、対象地であるケニア・ヴィクトリア湖周辺地域におけるマラリア伝播や原虫集団の時空間的変化を把握するのに有用な原虫遺伝子バーコードの同定を試みた。前年度までの解析結果ならびに共同研究機関であるロンドン公衆衛生熱帯医学校のグループとの議論から、既存の遺伝子マーカーでは対象地の原虫集団の時空間的違いを見出すのは困難であると判断され、本研究期間を含めこれまでに対象地で収集されたサンプルから得られた全ゲノムシークエンスデーターを用いてSNPsの組み合わせによる遺伝子バーコードの開発を進めた。また、疫学的観点からは、最新のマラリア感染状況の把握を目的とした横断的マラリア調査を2021年2月にランダムに選択した31の小学校で実施した。2020年中には、新型コロナウイルス感染症拡大のために現地調査が実施できなかったが、2021年2月の調査から、集団投薬後のNgodhe島における原虫感染率は平衡状態に達していること、また比較対象となる内陸部では室内残留型殺虫剤噴霧(IRS)による強力な伝播抑制が、IRSプログラムが1年で中断されたMfangano島においてはIRS後の伝播再興がそれぞれ確認された。今後、MDAとIRSという異なる介入後のマラリア伝播再興を原虫遺伝学的に解析、比較することで、伝播再興のメカニズム解明ならびに介入効果を持続させる対策の構築につながる可能性が示唆された。
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