研究課題/領域番号 |
18K15144
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
楠屋 陽子 千葉大学, 真菌医学研究センター, 特任助教 (50711149)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Aspergillus fumigatus / 銅 / 銅ホメオスタシス / 銅耐性化株 / RNA-seq |
研究実績の概要 |
銅は生命維持に欠かせない必須金属であるが、その濃度は低くすぎると生育が阻害され、高すぎると毒となる。環境中の至る所に存在する病原性真菌Aspergillus fumigatusにおいても銅の獲得と解毒が宿主内での生存に重要な役割を果たしている。そこでA. fumigatusの銅恒常性の維持に関連する因子の探索とその機能解明を通して、どのようにして宿主内で環境適応し、病原性を保ち感染拡大に至るのかを明らかにするため、銅恒常性(銅ホメオスタシス)の維持に関与する転写制御機構の解析を行う。 2019年度は、A. fumigatusの銅ホメオスタシス機構の転写制御を担っている転写因子Afmac1またはaceAを破壊した株を用いて行なったRNA-seq解析の結果から、A. fumigatusの銅ホメオスタシス機構に関与する遺伝子の情報が得られた。また、一口にA. fumigatusと言っても株間において、その形態や生理活性に違いが観察されることがある。そこで、患者から採取された臨床分離株、85株の銅に対する感受性試験の結果から、感受性の高い9株を選択した。9株の感受性株と野生株(AF93)を合わせた10株を銅の濃度を高くした培地で培養、回収する(1世代)、1世代目を銅の濃度を高くした培地で培養、回収する(2世代)、この継代培養を10世代まで繰り返し、銅に対する耐性を持つ株の作成を試みた。約半分の5株の10世代目において、銅濃度の高い培地での生育の増加が確認される銅耐性化株が得られた。更に継代培養した株では、様々な培地で生育や胞子の形成(胞子の数や色素)に継代前の株とは異なる変化が観察された。継代培養により生じた生理活性の変化を調べるためにRNA-seqを行い、銅耐性化により活性化された遺伝子の抽出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
Aspergillus fumigatusの銅ホメオスタシス機構の転写制御を担っている転写因子Afmac1またはaceAにより制御される遺伝子の候補や、銅に対する感受性の高い臨床分離株の中から銅耐性化株を得ることに成功した。銅耐性化株の作成は当初の計画には無かったが、近年、転写因子Afmac1とaceAにより制御される銅ホメオスタシスに関する知見が多く報告され、転写因子Afmac1とaceAと異なる方向からA. fumigatusの銅ホメオスタシス機構の知見を得るために行なった。銅耐性化株を用いてRNA-seqを行うことで、高濃度の銅に適応するために発現が活性化される遺伝子を発見するに至った。また、銅耐性化により生じると考えられるゲノムの変異を確認するために10世代目の銅耐性化株のゲノムシークエンスも行なった。しかしながら、当初の予定の候補遺伝子の破壊株の作成やChIPを行うための株の作成が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画にはなかったが、銅耐性化株の作成により高濃度の銅に適応する機構の知見が得られると考え行なった10世代目の銅耐性化株のゲノムシークエンスの結果を解析し、銅耐性化に関連する遺伝子を抽出し、それらとRNA-seqのデータ解析により得られた銅ホメオスタシスに関与する因子の候補、高濃度の銅に適応するために発現が活性化される遺伝子に関して、CRISPRを用いて破壊株の作成を行う。また、作成した1~10世代目までの株をそれぞれカイコに感染させ、毒性に違いがないかを確認する実験を新たに計画する。カイコへの感染実験の結果から株を選抜し、マウスへの感染実験を検討する。ChIPを行うための株の作成は引き続き行う予定だが、時間がかかるので、上記を優先して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA-seqやgenome-seqのライブラリー調整、次世代シーケンサーHiSeq等の試薬の購入を予定していたが、他の研究者と合わせて行うことができたため、試薬の購入等を節約することができた。ChIPを行うための株の作成が遅れているためChIPに必要な試薬、抗体等の購入をしていないために予定額に満たなかった。 新たに計画したカイコの感染実験に必要な器具や試薬、カイコとその餌等を購入する。また、作成の遅れている株の作成で用いるCRISPR法で必要なguidRNAやCas9タンパク、試薬等の購入を行う。
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