研究課題/領域番号 |
18K15149
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
氣駕 恒太朗 自治医科大学, 医学部, 講師 (90738246)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バクテリオファージ / 細菌 / 免疫 |
研究実績の概要 |
抗菌薬が細菌に効かなくなる「薬剤耐性」の問題は世界規模で広がり、医療安全を脅かす深刻な問題である。1928年にペニシリンが発見されて以来、100種類以上の抗菌薬が開発されてきた。しかし、現在はその全てに対して耐性菌が出現している。もはや既存の手法による抗菌薬開発は「限界に達している」ため、新たな細菌感染症治療戦略が何としても必要である。このような問題に立ち向かうための重要な手段として、ファージセラピー(細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージを用いる抗菌療法)がある。ファージセラピーは東欧、最近では欧米を中心に行われてきているが、化合物に置き換わるものにはなっていない。その理由の1つとして、ファージ療法の効果が不安定であることが挙げられていた。最近、ファージセラピーの成功の秘訣が、免疫細胞の活性化にあることが明らかになった。そのため、本研究では、ファージの投与と同時に免疫細胞の活性化を行える治療法の開発の行う。この研究により、ファージセラピーの新たな可能性の開拓を行う。また、どのような免疫活性化がファージセラピーの成功に寄与しているのかを調べる。 当該年度では、リバースジェネティクスという手法を用いてさまざまなファージの合成を行い、その機能を確認した。まず初めに合成の鋳型となるファージのDNAを準備し、5つの断片になるようにPCRにて増幅した。その際、それぞれの断片の末端が40塩基程度の相同性を持つように設計した。この断片をつなぎ合わせ、細菌に導入することでファージを合成(起動)できる。実際に、この手法を用いて、免疫細胞を活性化させることが可能なファージを10種類程度合成した。来年度は合成したファージをマウスの細菌感染症モデルに投与し、治療効果を確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、リバースジェネティクスという手法を用いてさまざまなファージの合成を行なった。リバースジェネティクスは、DNA配列からファージを起動できる合成生物学的手法である。本研究では、この手法を用いて、GM-CSF、Cxcl1、Cxcl5、Csf3、Ifng、Cxcl6、Cxcl2、Cxcl3、Cxcl4、Cxcl7を宿主細菌で合成できるようなファージを合成した。また、免疫学者から意見をもらい、現在追加でIL-6、TNF、IL-2、IL-17を合成している。これらの免疫関連因子はマウス由来のものであるが、標的細菌で合成できるよう、コドンを細菌用に最適化した。そのため、免疫関連因子の全配列は人工的に合成している。実際の合成手法は以下のように行なった。まず初めに合成の鋳型となるファージのDNAを準備し、5つの断片になるようにPCRにて増幅した。この断片をつなぎ合わせ、細菌に導入することでファージを合成(起動)した。本実験では、断片をつなぎ合わせる際に、合成した免疫関連因子の配列をファージ染色体内(ノンコーディング領域)に挿入した。また、免疫関連因子が宿主細菌で十分に発現できるよう、強力なLexAプロモーターの下流で免疫関連因子が転写されるようにした。実際に、この手法を用いて、免疫細胞を活性化させることが可能なファージを10種類程度合成した。合成したファージを宿主細菌に感染させたところ、免疫関連因子を発現させることが確認できた。この結果から、細菌への感染と同時に、サイトカインなどの免疫関連因子を放出できるファージの合成に成功したと考えている。このため、研究はおおむね順調に進展していると考えている。来年度はこのファージが実際にin vivoでもサイトカインを放出することを調べ、治療に効果があるか精査していく。
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今後の研究の推進方策 |
リバースジェネティクスを用いたファージの人工合成手法により、免疫関連因子を搭載したファージの合成に成功したので、今後の研究方針に大幅な変更点はない。今後は合成したファージのin vivoでの効能を調べていく。免疫関連因子を搭載させたファージは当初の予定よりも4種類(IL-6、TNF、IL-2、IL-17)多いが、マウスでの治療実験は可能な限り、全てのファージ投与を同時に行おうと考えている。この実験を行うことで、どのような免疫関連因子がファージと協調して標的細菌を殺菌しているのかを調べることができる。また、ファージと協調して細菌治療を行える免疫関連因子を同定することができると考えている。 これまでの研究から、ファージはマウスやヒトに無害であることがわかっているが、念のため、合成したファージのみをマウスに投与(皮下投与、静脈内投与、経口投与)し、健康上の変化がないか確認しておく。次に、マウスの皮下に黄色ブドウ球菌もしくは大腸菌を感染させ、数時間後、合成ファージを局所および全身投与する。生存率、体重変化、体温および皮下膿瘍の面積の経過を毎日測定することで、本ファージの治療効果を検討する。 また、合成ファージの改良を行っていく。治療効果の高かった、もしくは副作用が出た免疫関連因子について、その発現量を増減、もしくは複数種搭載することにより、治療成績を上げる。発現量の制御は、免疫関連因子のプロモーターやリボソーム結合部位の遺伝子改変により達成する。また申請者の所属研究室は多数のファージを保有しているため、免疫関連因子を搭載するファージを変更して、より治療効果の高いものも探索していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はファージのDNA合成を主に行ってきたが、DNA合成代の値引きがあったので、使用額が当初の予定より減少した。翌年度はin vivoでファージをマウスに投与していかなければいけない。マウスの維持費やファージの合成費は高額になるため、未使用額はこれらの実験の物品費に用いる予定である。
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