研究課題
この2年間で我々は、ヒト培養マクロファージであるTHP-1細胞において、らい菌はtriacylglycerol(TAG)を油滴として蓄積するために、その律速酵素であるglycerol-3-phosphate acyltransferase 3(GPAT3)を利用することを示してきた。また、GPAT3欠損株を用いた検討では、TAGの蓄積が抑制されるだけでなく、宿主細胞への菌の生存率および内在化が低下した。これらのことから、らい菌はGPAT3の発現誘導を介したTAG合成の亢進が、生存にとって必要不可欠であることを明らかにした。そこで最終年度では、この成果をより正確に報告するために、様々な追加実験を行なった。まず、宿主に蓄積されたTAGがらい菌由来でないことを証明するために、らい菌から脂質を抽出し薄層板クロマトグラフィー(TLC)で評価した。TLCによるTAGの検出限界はあるが、今回の検討では感染細胞から得られたTAGのシグナルはらい菌単独では検出されなかった。また、宿主由来のTAGがらい菌に利用されることについて、非特異的な結合である可能性を排除するために、加熱して失活させた加熱死菌を用いて生菌と比較検討した。すなわち、生菌および死菌を感染させたTHP-1細胞に14C標識脂肪酸を添加することで新規にTAG合成を促し、菌由来の脂質を抽出し取り込みを評価した。その結果、わずかながら死菌においてもTAGのシグナルは検出されたが、生菌においては顕著であった。このことから、菌における非特異的な結合ではなく、生菌によって利用される可能性が示唆された。また、GPAT3は貪食能に寄与する報告がある。そこで、GPAT3欠損株におけるらい菌の内在化や生存率の低下が貪食能とは関係ないことを示すために、野生型と欠損株におけるらい菌の貪食能をフローサイトメトリーで評価した。その結果、感染初期において、らい菌の貪食能に違いは見られなかったため、菌の内在化の低下は取り込まれた後の影響であると考えられた。
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PLoS One
巻: 16 ページ: 1-16
10.1371/journal.pone.0249184