研究課題/領域番号 |
18K15152
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
中島 純子 (富田純子) 愛知学院大学, 薬学部, 講師 (10454323)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薬剤感受性試験 / 薬剤耐性 / 薬剤排出システム |
研究実績の概要 |
ヘリコバクター・シネディは、近年分離報告が増加している感染症原因菌であり、国内の複数の医療施設で院内感染を引きおこしている注意すべき菌種である。本菌種感染症の特徴として、およそ35%の患者で再発が見られ、抗菌薬投与後、症状が寛解しても、しばらくすると再発する症例が数多く報告されている。本菌種の治療方針は未だ策定されておらず、抗菌薬治療におけるブレイクポイントが設定されていないため、治療に難渋している。ブレイクポイントは治療効果を予測できる基準値であるため、適切な抗菌薬の選択に重要である。平成30年度は、これまで国内外で分離されたヘリコバクター・シネディの薬剤感受性試験を行い、各薬剤に対する傾向を明らかにした。カルバペネム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系抗菌薬に対して感受性を示した(MIC90≦1μg/ml)。ペニシリン系、セフェム系抗菌薬は臨床現場での使用報告が多い抗菌薬であるが、MIC値としてはやや高い値であった(MIC90≧8μg/mL)。日本分離株の多くはキノロン系およびマクロライド系抗菌薬に耐性であった。耐性を示す薬剤については、耐性関連遺伝子について解析し、マクロライド系抗菌薬の作用点である 23SリボソームRNAの点変異や、GyrAのキノロン耐性決定領域の変異を確認した。また、薬剤排出システムの関与を調べるために、保有している国内分離株について薬剤排出システムの保有性およびアミノ酸配列を決定したところ、アミノ酸配列のある点変異が薬剤の高度耐性化に関与していることを見出した。薬剤排出システムが薬剤耐性のみならず、細菌病原性に関与している可能性を考えると、本菌種が保有する排出システムを理解することは、本菌種の感染対策にも有効であり、再発メカニズム解明にもつながると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、国内外分離株の薬剤感受性試験を行い、各薬剤に対する感受性を明らかにした。また、耐性傾向を示す薬剤については、薬剤耐性関連遺伝子の変異や薬剤排出ポンプの関与についても見出すことができた。より詳細に解析するため薬剤排出システムの欠損株を作製中であり、基質の同定や排出システムの構造変化と耐性化についても解析していく予定で、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、臨床現場と協力してより多くの分離株について薬剤感受性試験を行い、ヘリコバクター・シネディの治療方針の基盤を築けるように感受性データを蓄積する。また、薬剤排出システム欠損株を作製し、薬剤排出システムの耐性化への寄与度を明確にする。 ヘリコバクター・シネディの特異的遺伝子群の解析では、VI型分泌装置(T6SS)の構成タンパク質発現を抑制したT6SS欠損株を用いて、この分泌装置の機能とエフェクターの存在を明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、薬剤感受性試験および遺伝子工学を中心に研究を進めたため、物品の購入が予定よりも少なく、次年度使用額が発生した。 遺伝子工学用試薬やマウス飼育用品、細胞培養用試薬等の購入に使用する予定である。
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