研究課題/領域番号 |
18K15155
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
長瀬 里沙 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (60768034)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ピロリ菌 / CagA |
研究実績の概要 |
近年の研究からピロリ菌cagA遺伝子陽性株感染と胃がんとの密接な関連が明らかとなり、胃がん発症機序への理解や胃がん治療への応用にCagAの発がん活性発現における分子機構の解明が重要な意義を持つものと期待されている。これまでに、CagAを介する胃がんの発症においてCagA-SHP2複合体形成によるSHP2チロシンホスファターゼの機能的脱制御が重要な役割を果たすことが示されている。本研究ではX線結晶構造解析によりCagA-SHP2複合体の立体構造を解析することで、CagAによるSHP2活性化の分子基盤を解明することを目的としている。 本年度は研究実施計画としてEPIYA-Dペプチド-SHP2複合体およびEPIYA-D-CMペプチド-SHP2-PAR1複合体の安定性解析を行なった。緩衝液の種類、pH、NaCl濃度、温度、結合させる時間を変化させて、示差走査蛍光定量法(DSF)およびゲルろ過クロマトグラフィーを行なった結果、リン酸緩衝液、pH7.0-8.5においてCagApep-N-SH2-PAR1KD複合体の安定性が高くなる傾向があった。続いて、複合体安定性の高くなる傾向のあった緩衝液中でEPIYA-D-CMペプチド-SHP2-PAR1複合体を形成させた後、結晶化ロボットを使用して広範囲の結晶化条件を検討したところ結晶が得られる条件が見つかった。得られた結晶を用いてX線回折実験を行なった結果、これらの結晶はPAR1単独、あるいはN-SH2単独だった。今後は、引き続き結晶化条件の検討を行うとともに、より複合体が安定化する条件を探索していく。それと同時に、EPIYA-D-CMペプチド-SHP2-PAR1複合体のクライオ電子顕微鏡を用いた立体構造解析を開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では初年度までにX線回折実験を行う予定であったが、現時点では複合体の安定性解析と結晶化条件のスクリーニングを行っている段階である。今後も引き続き結晶化条件の探索を行うが、それと同時に、新たにクライオ電子顕微鏡を用いた立体構造解析も行う計画である。その際にはこれまでに行なってきた複合体の安定性解析が有用であると考えている。以上のように当初の計画からは遅れがあるが、次年度は新たな手法を加えることで研究が進捗することと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、これまで通り結晶化条件の探索を行なっていく。それと並行してクライオ電子顕微鏡による立体構造解析を目指す。まず、これまでに用いてきたEPIYA-D-CMペプチド-SHP2-PAR1複合体を用いて、グリッドの作製条件を検討する。解析可能な画像が取得できた場合は二次元クラス分けを行う。その際に、複合体が形成されている割合を基準として複合体安定性の確認が可能であると考えている。二次元クラス分けが順調に進行した場合には立体構造の再構築を行う。 結晶構造解析あるいはクライオ電子顕微鏡による立体構造解析により立体構造情報が得られた場合、当初の計画通り、CagA-SHP2複合体形成ならびにCagA-SHP2-PAR1複合体形成を阻害するCagA変異体分子の作製および立体構造解析により得られたCagA変異体分子の生物学的機能の解析を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画では結晶化から回折データの取得、さらに構造解析を行う予定であった。しかし、現状として結晶化条件のスクリーニングを行っている段階であり、遅れが生じている。従って、研究の遅れに伴い本年度使用額が次年度に持ち越された。以上の事由から次年度使用額が発生した。しかし、次年度は結晶構造解析に加えてクライオ電子顕微鏡による立体構造解析を開始する。従って、クライオ電子顕微鏡のマシンタイム使用料が発生するため、本年度までに使用予定であった残額をそれに充てていく予定である。さらに、実験の進行に伴い、本年度に使用する予定であった試薬や解析用PCも順次購入する。
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