研究課題/領域番号 |
18K15157
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
須藤 直樹 国立感染症研究所, 細菌第一部, 研究員 (50736105)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / Hfq / LEE / ler / 転写後発現制御 |
研究実績の概要 |
本課題は腸管出血性大腸菌が保持する主要な病原性遺伝子群locus of enterocyte effacement(LEE)の発現を一括的に制御する転写因子をコードするler遺伝子の転写後制御因子の同定、及びその機能の解明を目的にする。平成30年度は、主にlerの転写後制御因子の同定に向けた条件検討等の予備的な実験を行い、さらに同定した因子の機能解析を行なった。 lerの転写後制御因子の同定では、MS2コートタンパク質と、それに特異的に結合するRNA配列(MS2タグ)の相互作用を利用してMS2タグを付加したler mRNAを精製した時、共精製される因子を解析する。まずMS2タグの付加位置の検討をしたところ、ler mRNAの5’末端にMS2タグを付加すること、MS2タグの二次構造形成に干渉する配列を持たない位置にMS2タグを配置することが精製量の確保に重要であることがわかった。これらの条件を元にler-MS2 mRNA発現プラスミドを構築し、RNA精製、及び共精製されたタンパク質因子を解析したところ、RNA結合タンパク質Hfqを同定した。Hfqはlerの発現を転写後段階で抑制することが報告されているが、そのメカニズムは未解明であった。そのため詳細な解析を行なったところ、ler発現抑制に関与するHfqの機能ドメインを同定し、抑制メカニズムの一部を明らかにすることができた。この結果は、本課題の目的である「lerの転写後制御因子の同定からその機能解明」を果たしたと言える。加えて、解析を進める中で、Hfqがler以外の病原性調節因子の発現を転写後段階で抑制すること、そのHfqの機能ドメインを明らかにした。この結果は、腸管出血性大腸菌の病原性発現において転写後段階の制御が多数存在することを示唆し、本課題の重要性を増強するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成30年度にler mRNAを精製した時に共精製されるRNA、及びタンパク質を同定する予定であった。しかし研究を遂行する中で、タンパク質因子としてHfqを同定したため、平成31年度(令和元年度)に行う予定であった機能解析を前倒しで行い、Hfqのler抑制メカニズムを明らかにした。一方で、予定していたRNA因子の解析が後回しとなり予定より遅れが生じている。全体として本課題研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に明らかにしたHfqによるler抑制メカニズムについて、順調に研究が進んでいるため平成31年度(令和元年度)中の学術論文化を目指す。また、平成30年度に予定していたler mRNAに結合するRNA因子の解析を、次世代シークエンサーを用いて行い、さらに遺伝学的、生化学的解析からlerの転写後制御を担うRNA因子を同定する予定である。またタンパク質因子についても質量分析等を用いてより網羅的に行っていく予定である。加えて、平成30年度の研究からler以外の病原性調節因子の発現にも転写後制御が存在することが示唆されたため、lerで用いたストラテジーを利用し解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが平成31年4月1日以降となったため。 当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、平成30年度分についてはほぼ使用済みである。
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