新興下痢原性細菌であるEscherichia albertiiは、近年食中毒事例の原因として注視されている。既報の本菌感染症の多くは軽症であるが、今回、溶血性尿毒症症候群(HUS)症例からE. albertiiが分離され、本株が原因菌であると推察された。このことから、本分離株を用いて、E. albertiiの病原性解析を行うこととした。E. albertiiの中には、病原遺伝子として志賀毒素サブタイプstx2aあるいはstx2f遺伝子を保有する株の存在が報告されている。本分離株のゲノム解析に結果、stx2f遺伝子を保有することが明らかとなった。Stx2はHUSの原因となる毒素であるが、Stx2サブタイプのうち、有症例を引き起こす菌の多くが産生するのはStx2aであり、一方、Stx2fは、未だ重症化との関連が不明瞭なマイナーサブタイプである。このことから、本分離株のStx2fの毒性評価を行った。E. albertii分離株について、in vitroでのStx2f産生性をRPLAならびに抗Stx2f抗体を用いたウェスタンブロットで調べたところ、マイトマイシンC(MMC)添加の有無に関わらずStx2fはほとんど検出されず、発現レベルが著しく低いことが明らかとなった。さらに、本分離株由来のstx2fファージを保有した大腸菌実験室株を取得し、E. albertii以外のバックグラウンドにおける本stx2fファージの発現を確認した。その結果、溶原菌では明らかなStx2f産生性を認め、MMC添加により産生性が増強された。また、E. albertiiを大腸菌実験室株と試験管内で共培養すると、E. albertii単独培養と比較して顕著に毒素量が上昇し、E. albertiiと相同のstx2fファージを保有する大腸菌の存在を確認した。以上のことから、E. albertii分離株においてはStx2fの発現レベルが低く抑えられているが、環境中や宿主体内で本分離株由来のstx2fファージをstx非産生性株が獲得することで、病原性が増長する可能性が考えられた。本成果について、論文投稿予定である。
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