結核はわが国において、年間約2300人の患者が命を落としている最大級の感染症である。結核予防ワクチンとしてBCGワクチンがあるものの、肺結核に対する明確な予防効果は認められていない。そこで本研究は、BCGなど抗酸菌の宿主免疫反応を負に調節するサイトカイン抑制分子(SOCS)に着目し、SOCS1のアンタゴニストとして働くSOCS1変異体(SOCS1DN)を用いて、現行のBCGワクチンよりも有効な新規BCGワクチン開発の基盤づくりを目指した。 2019年度は昨年度に引き続き、作製したBCG-cynoSOCS1DNのマクロファージにおける作用機序ならびにカニクイザルを用いた免疫原性の確認を行った。まず、マクロファージにBCG-cynoSOCS1DNを感染させた後、SOCS1DNの効果を検証した。その結果、STAT1のリン酸化が亢進していることが確認され、さらに、その下流シグナルのIRF1の発現が上昇し、IL12の産生量が有意に上昇していることが確認された。このことから、SOCS1DNを搭載したBCGはTh1への誘導を亢進させることが示唆された。 次にカニクイザルを用いてBCG-cynoSOCS1DNを接種し、局所での炎症反応と抗原特異的なT細胞応答を検証した。接種後4週で接種部位における炎症反応が現行BCG接種群においてのみ認められたが、BCG-cynoSOCS1DN 接種群には認められなかった。また、接種4週後の抗原特異的なCD4+T細胞応答をフローサイトメーターで解析した。その結果、BCG-cynoSOCS1DN 接種群において抗原特異的なCD4+T細胞応答が上昇傾向にあることが確認された。以上のことからBCG-cynoSOCS1DN は、現行BCGよりも炎症を軽減させ、T細胞応答を上昇させる有用性の高いワクチンであることが示唆された。
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