研究課題
本課題の研究対象であるBat mumps virus (BMV) は2014年にザンビアで捕獲したピーターケンショウコウモリ (Epomophorus crypturus) から分離された。同コウモリ群におけるBMV保有率を明らかにするために、2014-15年に捕獲した計81頭のコウモリを対象にBMVに対する遺伝学的スクリーニングを実施した。その結果、21% (81頭中17頭が陽性) の個体がBMV遺伝子を保有することがわかった。BMVの組織ごとの分布を調べたところ、脾臓において最もBMV検出頻度およびウイルス力価が高かった。ついで、肺、腎臓、結腸、唾液腺におけるBMV検出頻度が高いことがわかった。ヒトのMumps virus同様、唾液腺におけるウイルス増殖が認められたことは興味深い。以上の結果から、唾液、尿、便などの分泌物を介してBMVがコウモリ間を伝播していることが窺えた。今後はE. crypturus以外のコウモリについても分子疫学的および血清学的スクリーニング実施し、BMVの自然界での生存様式に関する知見を蓄積したいと考えている。BMVの宿主特異性、病原性などを解析する目的で、様々なげっ歯類モデル動物 (マウス、ラット、ハムスター、モルモット) を用いた実験感染を実施した。BMVを腹腔内もしくは鼻腔内接種したところ、顕著な臨床症状は示さなかったもののいずれの個体においても抗体の陽転が確認された。また、ラットおよびハムスターの臓器 (脾臓、唾液腺、結腸等) からBMV遺伝子が検出された。これらの結果は、BMVがコウモリ以外の哺乳動物に対しても感染性を有することを意味する。
2: おおむね順調に進展している
ザンビアで捕獲したコウモリにおけるBMVの保有状況およびげっし類動物モデルを用いた感染実験など、初年度に計画していた実験を滞りなく実施することができた。詳細な解析を継続する必要はあるが、概ね計画通りに進捗していると判断することができる。
E. crypturusに対するBMV遺伝子のスクリーニングは完了したものの、血清学的な解析は実施していない。精製ウイルスもしくはウイルス蛋白質を抗原としたBMV特異抗体の検出あるいは感染性BMVに対する中和試験を実施し、コウモリのBMVに対する過去の感染状況についての知見を得る。ザンビアではE. crypturus以外にも他種多様なコウモリを捕獲している。パラミクソウイルス遺伝子を広範囲に検出できるPCR法を用いて、E. crypturusを含む多様なコウモリにおけるパラミクソウイルスの分布状況を把握し、コウモリパラミクソウイルスの生態学的・進化学的な知見を得たい。BMVの動物実験によりげっ歯類動物の組織におけるウイルス増殖は確認されたものの、臓器中のウイルス力価などの詳細については解析をする必要がある。また、臨床観察による症状は確認されなかったものの、組織学的な解析により各臓器における病理学的変化を観察したい。また、免疫染色法により各組織におけるウイルス抗原を検出し、BMVの組織学的な特異性あるいは生体における増殖様態などに関する知見を得たいと考えている。
当研究課題を開始するにあたり、過去の研究により採集し、国内で保管されているコウモリの余剰検体を用いた実験から着手した。解析の結果、当初の予想よりも好ましい結果が得られたため、初年度に予定していたザンビア出張を先送りにした。次年度使用額については 初年度に延期したザンビア出張および現地での活動に必要な経費に充てる。また、研究成果を発表するための国内学の学会参加費にも使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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