研究課題
本課題の研究対象であるBat mumps virus (BMV) は2014年にザンビアで捕獲したピーターケンショウコウモリ (Epomophorus crypturus) から分離された。昨年度までの研究により、22%のピーターケンショウコウモリがBMV遺伝子を保有することを明らかにした。一方で、BMV以外にも遺伝学的に極めて多様なパラミクソウイルスが世界各地の多様なコウモリ種に保有されていることが知られている。そこで、過去に捕獲したエジプトルーセットオオコウモリ (Rousettus aegyptiacus) 全307頭を対象にパラミクソウイルスのスクリーニングを実施した。パラミクソウイルス遺伝子を広く検出するRT-PCR法によるスクリーニングの結果、11頭のエジプトルーセットオオコウモリからパラミクソウイルスの遺伝子が検出された。シークエンス解析の結果、それらのウイルスは5つの異なる系統が含まれることがわかった。コウモリ検体からのウイルス分離を試みたところ、BMVウイルス以外のパラミクソウイルスはこれまで分離されていない。しかしながら、一部のコウモリ検体を接種した細胞が細胞変性効果を示したため、培養上清を用いて次世代シークエンス解析を実施した。その結果、エジプトルーセットオオコウモリからナイロウイルスおよびバンヤンウイルス (共にブニヤウイルス科に属する) が分離されたことが明らかとなった。今後、これらのウイルスの全ゲノムシークエンスを決定し、分子系統学的な解析を行う。また、動物モデルを用いた感染実験を実施し、これらのウイルスがコウモリ以外の哺乳類に対して病原性を保有するかどうか、評価する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
主な研究対象であるBMVについては概ね計画書に記載した計画を実施することができた。今年度はBMV以外のパラミクソウイルスおよび複数のブニヤウイルスをザンビアのコウモリから分離することができた。これらは当初想定していた以上の成果であり、来年度以降の研究の発展が期待できる。以上の理由から、本課題は「当初の計画以上に進展している」と評価した。
BMVに関する研究は概ね必要なデータを取得することができたため、データをまとめて発表する予定である。今年度新たに検出したウイルスについて、その全ゲノム配列を決定し、分子系統解析により進化学あるいは生態学的な考察を行う。また、マウス、ラット、ハムスターなどの小型齧歯類の動物モデルを用いて感染実験を実施し、コウモリ以外の哺乳類に対する病原性について評価し、人獣共通感染症の病原体としてのポテンシャルを有するかどうか検討を行う。また、これらの新たに検出されたウイルスのコウモリ群における分布、組織指向性などを同時に解析し、これらのウイルスの自然界における生存戦略についても明らかにしたい。
次年度使用額はさほど大きくなく、概ね計画通り予算を使用している。来年度は当初の計画通り動物モデルを用いた感染実験を中心に研究を行う予定である。繰越金についても通常の研究の範疇で執行可能と考えている。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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