研究課題
がん治療や移植医療では、強い免疫抑制に伴ってウイルス関連合併症が相次いで現れることがある。Epstein-Barrウイルス(EBV)はその代表的なウイルスであり、移植後リンパ増殖症を初めとする免疫不全関連リンパ増症の原因となる。DNA複製機構をターゲットとした既存の抗ヘルペスウイルス薬はEBV感染症に対する有効性が示されていない。さらに、これらの抗ウイルス薬は骨髄抑制を誘発するため、免疫不全関連リンパ増殖症では投与が困難である。そのため新たな作用機序を有する新規治療薬の開発が望まれている。我々はウイルス粒子形成に必要な後期遺伝子の発現制御因子Viral Pre-initiation complex (vPIC)が、ウイルス増殖を抑える分子標的となり得ることを報告してきた。本研究ではEBV関連リンパ増殖症の発症モデルマウスを用いて、vPICがin vivoのリンパ増殖症の発生・進展における治療標的となりうるか評価を行うことである。初年度には以下の結果を得た。1) 薬剤スクリーニングにより小分子化合物Cyclin-dependent kinase (CDK)阻害剤を同定し、その阻害剤が抗ウイルス活性を示すことを少なくとも培養細胞レベルで見出した。2) CDK阻害剤がDNA複製には影響を及ぼさず後期遺伝子の発現を負に制御することから、既存の薬剤とは異なる機構で抗ウイルス活性を示すことがわかった。3) EBV関連リンパ増殖症の発症モデルマウスを用いた予備実験により、適正な化合物の投与方法、投与量、投与経路などが決定した。
2: おおむね順調に進展している
後期遺伝子の発現およびウイルス増殖を抑制できる化合物としてCDK阻害剤を同定してきた。現在、同化合物がEBV関連リンパ増殖症の治療薬として有効かどうかを検証するために、EBV関連リンパ増殖症発症モデルマウスを用いたin vivoでの実験を開始している。初年度、培養細胞レベルでの検証が終了し、報告することができた(Sato, Watanabe et al., J Virol 2019)。さらにin vivoでの実験についても予備実験により化合物の投与方法や経路などが決定しているため、研究は順調に進展していると考えている。
今後は、予備実験のデータを参考にリンパ増殖症発症モデルマウスを用いたCDK阻害剤による治療実験を開始する。リンパ増殖症の発生率、腫瘍浸潤の程度などから治療効果を判定するし、後期遺伝子の発現制御機構をターゲットとした治療薬がin vivoレベルで有用かどうかを明らかにしていく。さらにCDK阻害剤のターゲット遺伝子に変異を導入した組換えウイルスを用いて、in vitro機能解析および免疫不全マウスを用いたin vivo機能解析を実行し、後期遺伝子の発現がEBV関連リンパ増殖症の病態にどのように関与しているかを検証していく。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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