研究課題/領域番号 |
18K15169
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
上田 優輝 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (90756074)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Li23 / NTCP / Subcloning / HBV/secNL repoter assay |
研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)の基礎研究では、肝がん細胞株由来のHepG2細胞株が世界的に用いられている。本研究において、我々はHepG2と同等以上のHBV感受性を示す細胞株を樹立し、新規抗HBV剤候補の探索やHBV感染増殖に寄与する新規宿主因子の同定を目指している。本年度の研究では、HBVの感染受容体である胆汁酸トランスポーター(NTCP)を発現する肝がん細胞株由来のLi23細胞株にHBV感受性を既に見出しているが、その感受性はHepG2/NTCP細胞と比較して1/100以下だったため、限界希釈法によるサブクローニングによってHBV感受性を高めることができるか検討した。Li23/NTCP細胞は1ヶ月間培養して多様性を持たせたのちに、サブクローニングを行い数十種類のサブクローン化細胞を作成した。サブクローン化細胞のHBV感受性はHBVの感染増殖性を定量的に評価できるHBV/secNLレポーターアッセイ系を用いて評価した。評価の結果一番HBV感受性が高かったサブクローン化細胞について再度同様の手法を用いてサブクローニングを繰り返した。最終的にサブクローニングは4回行い、HepG2/NTCP細胞と同等以上のサブクローン化細胞が得られた。また、Li23細胞はHepG2細胞と遺伝子発現プロファイルが大きく異なるため、薬剤感受性に差がでることが予想された。そこで、HBVの感染阻害活性が報告されているいくつかの化合物についてHBV/secNLレポーターアッセイ系を用いて評価した。その結果、細胞株の違いによって薬剤感受性に大きな差が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究で得られたLi23/NTCP細胞由来のサブクローン化細胞は親細胞と比べてHBV感受性を飛躍的に高まりHepG2/NTCP細胞と同等以上になった。HBVの基礎研究ではHepG2細胞由来の細胞株のみで実験が行われることが多く、肝がん細胞株由来でHepG2/NTCP細胞と同等以上のHBV感受性を示す細胞株は報告されていない。また、細胞株の違いによって薬剤感受性に大きく差がでることを明らかにしたことから、複数の細胞株由来のアッセイ系で化合物を評価することが重要であることが示唆された。これらの結果から、HBVの基礎研究を発展させる重要なツールを構築できたと自負しており、化合物の評価だけでなく、HBVの感染増殖に必要な宿主因子の解析など様々な研究に役立つことが予想されることから当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Li23細胞株で成功した限界希釈法によるサブクローニングが他の細胞株でも利用できないか検討する。1年目の研究で得られたLi23細胞株由来のサブクローン化細胞とHepG2/NTCP細胞を用いて化合物のスクリーニングを行い、新たな抗HBV剤候補を見出す。さらにHBV感受性が高い細胞株と低い細胞株をcDNAマイクロアレイ解析などによる比較解析を行うことで、HBVの感染増殖に必要な宿主因子候補を選択する。選択した宿主因子候補はレトロウイルスベクターによる強制発現細胞の作成やsiRNAやCRISPR/Cas9システムを用いて、候補因子がHBV感染増殖に寄与しているかどうかを明らかにする。同定できた場合は免疫染色や免疫沈降などによりHBVの感染増殖にどのように寄与しているかを明らかにする。また、宿主因子に変異を導入したり欠損させたりすることで、宿主因子の機能のどの部分がHBVに重要であるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではHepG2/NTCP細胞と同等以上の細胞株を樹立するためには、多数の細胞株を用いてサブクローニングを何度も繰り返す必要があると予想され、そのために必要な細胞培養用品の物品費を多く見積もっていた。しかし、多くの細胞株を試す前に目的の細胞株が得られたため、これらの物品費の消費をかなり節約することができた。来年度は得られた細胞を用いて化合物のスクリーニングやsiRNA、CRISPR/Cas9システムの導入など行ったりすることから、細胞培養用品以外の部分で多くの物品費が必要であり、次年度に繰り越した金額は使い切ることができると考えている。
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