研究課題/領域番号 |
18K15174
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
高橋 健太 国立感染症研究所, 感染病理部, 主任研究官 (80711689)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 進行性多巣性白質脳症 / JCポリオーマウイルス / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal leukoencephalopathy, PML) は、血液系悪性疾患や後天性免疫不全症候群、自己免疫疾患など、主に免疫抑制状態にある患者で、JCポリオーマウイルス (JC polyomavirus, JCPyV, JCV) により惹起される致死性の脱髄疾患である。近年では抗体医薬や免疫抑制剤使用時の副作用として発症するPMLへの関心が急速に高まっているが有効な治療法は確立しておらず、その開発が強く求められている。 本研究ではJCVがコードするマイクロRNA (miRNA) に着眼し、ウイルスmiRNAを標的としたPMLの診断、病態解明および新規治療法開発の観点から、検討を行ってきた。これまで国立感染症研究所感染病理部において病理学的検索でPMLと確定された実際の脳組織検体を使用し、in situ hybridizationによりウイルス由来のmiRNAが感染細胞の核に局在することを組織標本上で初めて明らかにした。また、定量的reverse transcription polymerase chain reaction (RT-PCR) では、PML脳組織において非PML脳組織と比較しJCV miRNAの発現量が有意に高いことを示した。次世代シークセンサーを使用した解析では、JCV miRNAは未成熟なものも多く含まれた状態で発現していることを明らかにした。さらにJCV miRNAをコードする領域に変異を有するJCVゲノムを作製し、培養細胞を用いた実験系において、JCV miRNAはウイルスタンパク質の発現に抑制的に作用することを明らかにした。 2020年度はこれらの解析結果をまとめ、発表論文はPLOS PATHOGENS誌に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、国立感染症研究所感染病理部における検索でPMLと確定された実際のPML脳組織を用いた解析を行った。In situ hybridizationでは、PML脳組織におけるJCV miRNAの発現の局在を初めて明らかにした。Northern blotおよび定量的RT-PCRによる解析では、組織からのJCV miRNAの検出と定量を行った。次世代シークセンサーを使用した解析では、JCV miRNAは未成熟なものも多く含まれた状態で発現していることを明らかにした。さらにJCV miRNAをコードする領域に変異を有するJCVゲノムを作製し、培養細胞を用いた実験系において、JCV miRNAはウイルスタンパク質の発現に抑制的に作用することを明らかにした。2020年度はこれらの実験結果をまとめ、発表論文はPLOS PATHOGENS誌に採択された (Takahashi K, et al. PLoS Pathog, 2020;16(4):e1008523)。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究では実際のPML脳組織におけるJCV miRNAの発現の解析や定量、培養細胞系を用いたJCV miRNAの機能解析を行い論文発表を行ったが、今後はこれらのデータを、PML脳組織における形態学的特徴や、JCVゲノムの発現量等と併せて比較検討し、解析をさらに推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 年度末納品等に係る支払いが2021年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。 (使用計画) 上記の通り。また、経費の節減により生じた2020年度分の残額については、次年度の研究費と併せ、上記研究のために必要な消耗品、試薬や論文投稿のための費用として使用する。
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