我が国ではヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染者数は未だに多く、100万人以上と推定される。その約5%が悪性の成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症するリスクを背負っている。しかしながら、その発症機序に関しては不明な点も多く、HTLV-1感染に対する治療、発症および感染予防法等の開発は遅れている。その大きな理由としてヒトでの感染を反映する適切な動物感染モデルが無いことが挙げられる。HTLV-1研究において、過去に霊長類を用いた研究の報告は国内外であるが、感染率が極めて低く、感染モデル動物としては確立されなかった。本研究では①HTLV-1感染カニクイザルの解析を基盤研究としモデル動物として確立すること、②HTLV-1感染カニクイザル生体内における持続感染・発症に寄与するファクターの解明を目指し免疫制御因子による病態変化への影響を明らかにすること、を目的としている。 本研究により樹立したHTLV-1感染カニクイザルに、サイトカインシグナル制御因子1のDNAワクチンを接種し、末梢血を用いてプロウイルス量・抗体価等を解析したが、免疫制御因子の調節による変化は見られなかった。DNAワクチンによる遺伝子導入効率の検証および向上させるための検討が今後必要である。一方、カニクイザルを用いて投与法の検討を行ったところ、HAM様症状等は観察されなかったが高プロウイルス量を示した。一定期間プロウイルスが高く維持されることも確認し、今後、治療や予防を目的とした医薬品の評価モデルへの応用も有望であると考えられた。
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